小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

アガペー 〜あるAV女優へ〜 (前編)

INDEX|8ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

 初めてこの男と会った日から二ヶ月ほど経ったか。 
 盲目の人間とこうして並びあう機会を設けて下さったことを神に感謝する。
 非常に興味深いし、この男の個性はなかなかにしびれる。
 最初の頃は介助に関して戸惑いもあったが、今は大体の勝手はわかってきた。それは想像していたものとは全く違って、干渉しない、手伝わないというのがこの男の要求する基本的なルールだった。
 盲目の人間を前にして何もしないというのは少し手持ち無沙汰な感はあるが、それこそが仕事だということになると、なるほどそれなりに注意を払わなければならない。
 能力という点においては、予備知識として事前に聞かされていたよりも遥かに鼻と耳の能力が高く、常人のそれとは明らかな差異を感じた。気配の察知能力も凄まじいものがある。
 匂いで相手を特定するということもあるようだ。一緒に外出する際には支給された香水を必ず振らなければならない。おそらく調合もオリジナルなのだろう。シトラス系で悪い香りではない。
 見えない鎖に繋がれているようなものだ。女の浮気チェックと同じ類いだな。
 それにしても何のために海なんかにまで来たのかはわからないが、神経が昂ぶると大自然に触れたがるんだと、雇い主でもある彼の父親が言っていた。自然と共に考えたがるらしい。
 いずれにしても、女をナンパしに来たわけではなさそうだ。

 待機中は退屈だがしょうがない。俺は波に漂う木っ端のように、ゆらゆらと揺られていればいい。
 相手の意思に任せて、際限の見えない待機を命じられると、それくらいの気持ちのほうが楽に過ごせる。
 ただいくら退屈でも目を閉じるわけにはいかない。
 無論、空気的に雑誌を読むわけにもいかない。
 ドリンクホルダーに差し込んだ缶コーヒーにも手をつけない。
 静かで浅い呼吸に努め、後部座席から醸し出される空気感に馴染むようにする。
 独特の細かいルールがある中で、こちら側から信用を訴える時、彼が受け取る手段として、その聴覚に悟ってもらうしかない。
 小賢しいアピールは性に合わないが、自分なりに一つの流儀を示して、審判を仰ぐというやり方でいく。
 俺だってもともと一人が好きなんだ。
 干渉される、手伝われるのが嫌なのはよく理解出来る。似たもの同士、距離感は掴みやすい。