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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (前編)

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 小野の役割はただ話を聞いてあげること。
 長年親交のある友人が、小野の住んでいるアパート近くの教会で牧師をやっていて、その教会が覚醒剤中毒者からの相談や、うららのように昔やっていたが今は止めていて、その後精神的に安定しないので話を聞いてもらいたいというような相談をボランティアで受けていた。
 小野はキリスト教徒というわけではなかったが、教会の行事には地域住民として率先して参加するように心掛けていて、クリスマスはもちろんのこと、毎年決まった時期に予定されているバザーやキャンプやバーベキュー大会など、礼拝堂の飾りつけからテントの設営まで、準備も後片付けも全て参加するようにしていた。
 温厚で誠実な人柄は他の牧師達からの信頼も厚かった。
 小野自身も牧師達の覚醒剤経験者に対する熱心な仕事振りを何度か目の当たりにするうちに、生来の正義感も手伝ってか、自分に出来る範囲で構わなければとボランティアの有志を買って出たのだった。
 牧師らが他の要件でどうしても対応出来ない場合にだけ、そこのボランティアスタッフとして代理で相談を任されるようになった。
 もちろん相談者にはボランティアスタッフでも構わないかどうか事前に確認される。
 うららは構わないと返答していた。

 ウェイトレスがグラスを持ってきて、二人は一緒にドリンクバーに向かった。
 小野はうららに何にするか尋ねてから、二人分のアイスコーヒーを作って片方をうららに差し出した。
 テーブルに戻り、小野はアイスコーヒーを少しだけ口にして「私で力になれれば幸いですが、もし聖書の教義のことで質問があるようでしたら一度教会にいらしてください。牧師さん達はすごく熱心ですので」と言った。うららはわかりましたと答えた後、バッグの中から携帯電話を取り出してテーブルの上に置いた。

 そして、まず数分の沈黙を用意した。
 小野は何も言葉を発さずに、ただ同調しようと努めた。
 そしてうららから唐突に放たれた第一声は、やはり目の前にいるこの男を信用しても大丈夫なのかという猜疑心に満ちた覚束ない口調だった。
 まずうららは、今はソープランドで働いているんだということから話し始めた。
 それを最初に告げなければ今から話す話の内容の整合性が図れないという風だった。
 小野は丁寧に頷いた。