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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (前編)

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 全ての魔法は一度きりで、再度試みることはありません。
 当時生まれて初めてパチンコに行った時も、他のお客さんがほとんどいない、いかにも場末のパチンコ屋さんで、適当に座って千円、当たれと念じて二十万円分くらい大当たりしました。店員さん達の慌てふためいた顔を今でも楽しく思い出せます。
 初めて競馬に行って有馬記念で万馬券を当てたときも、一点だけ買って、ただ来いとだけ念じました。
 例えばこの店で流れているような有線も自由に選曲出来たし、一時的にですが車や人通りを無くすことだって出来たんです。
 それでも全ての魔法は一度きりで、再度試みることはありません。
 無欲、衝動、また無欲。
 何が悪で、何が正義なのか。
 そして何としてでも……、少なくとも覚醒剤が血流に乗って全身を隈なく駆け巡っている間、その効力がある間は、闇雲に正義でなければなりませんでした。
 善悪の正確な判断こそが、覚醒剤によって心身共に疲れ果て衰弱しきった当時の私が、この世で生命を存続させるために必要とする最低限の幸運を懇願する根源になっていたからです。
 正義へのわずかな執着の炎こそが視界を照らし出し、怯えが焦点を調整しました。
 物質的なもの、つまり覚醒剤によって限界にまで開かれた瞳孔をもってしても、もうすでに何も見ることは出来なかったのです。