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アガペー 〜あるAV女優へ〜 (前編)

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 喫煙エリアから笑い声がドッと聞こえた。
 向こう側はかなりの客で賑わっているようだった。
 小野はさっきにも増して、まだ何か不思議な感じが抜けなかった。
 今、店の有線では小野が大好きなアメリカのロックバンド、ニルヴァーナの代表曲Smells like teen spiritがかかっていた。
 学生時代はニルヴァーナしか聞かなかったほど大好きなバンドだった。
 アルバムを何度も何度も繰り返し聴いては、歌詞の意味を貪るように調べ尽くした。
 聴き慣れた曲のイントロが流れた瞬間、小野は思わず俯いたままのうららを見つめた。
 小野はうららの携帯電話に付けられたキーホルダーをずっと気にしていて、それはまさにニルヴァーナを象徴する黒色のスマイルマークだった。
 場の雰囲気が和めば、共通の話題としてニルヴァーナの話を持ち出すことが出来るかもしれないと目論んでもいた。
 超有名バンドの代表曲が有線でかかることは別に珍しいことでも何でもない。
 しかしそれはまるで話の内容に信憑性を抱かせるために、うららから放られた一枚のカードのように思えた。
 まさか有線の選曲を操るなんてことが出来るわけがない。
 それでも小野はうららと相対する自分がその意図に気付かなければ、彼女はここで話を終わらせ、この場から去ってしまうのではないかとも考えた。
 小野は平静をまとい、静かにゆっくりと頷いた。
 うららは少し微笑んだようにも見えた。