D.o.A. ep.17~33
ダナル=アインタインは、満身創痍の上、我を失ったような顔つきで、地平線にしずむ夕陽を見つめる。
その手には、“友だった者”の、愛用した剣がにぎられていた。
いつだったか。
たしか、王国祭の花火を見上げた夜だった。
この剣は、先祖から受け継いだものらしいと、後輩に教えてやって、銘の由来を聞かせてもやった。
すると後輩は、独自の発想の転換で、その情けない由来を、強運の証にしてしまったのだ。
それを聞いて彼は、人間いちばん成長するのは恥をかいたあとだ、なんて、家訓を語りながら、少し照れた顔をしていた。
だが、そんなものは、ただの気休めに過ぎなかった。
なぜこんなことが起こったのだろう。
理由を求めるには、彼はこの戦いについてあまりに無知だった。
ただ、よくわからない敵が襲ってきて、軍人だったから、戦った。
死ぬかもしれないと思ってはいたが、どんなふうに死んでもいいとまではあきらめきれていなかったので、白い獣が現れたときはひたすら逃げた。
たくさんの死を見た。見続けて、見飽きるくらいに、身近になっていた。
やがて、きっともう逃げ切れないな、と悟ってしまった。
もとより、人生がどうでもいいという思いが根底にあったから、あきらめも、他の者より早かったのだろう。
周りは自分のみを助けることで精一杯で。
だから、こんな怪物に追いかけられながら、誰かを助けてしまうような馬鹿がいるなんて、すっかり忘れて―――
「何で…」
現実は、ヘクト=レフィリーの最期を、白い獣の下じきとして終わらせたのだ。
ダナルという親友を押しのけて、彼は、怪物の体の下へと消えてしまった。
あまりにたくさんの人と共につぶされてしまったから、どれがヘクトかなんて、もはや見分けがつかなかった。
彼の手から離れて、ダナルのところへ転がっていたレフィリーレジェンドだけは、無事だった。
「何で、俺…、なんで」
喉がカラカラにかわいて、かすれた声が、意味をなさない単語をつむぎだす。
なぜ俺が助かってしまったのか。
なぜ俺を助けようとなどしてしまったのか。
なぜ俺はあきらめずに、最後まで助かろうと努力しなかったのか。
これが、「人生などどうでもいい」と、どこかで思いながら生きてきた報いだというならば、あまりにひどいではないか。
現実には神も仏もいない。
そのことが悔しいのか悲しいのか、自分でもわからないまま、ダナルは友の形見を抱きしめ、むせび泣いた。
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作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har