D.o.A. ep.17~33
三十以上のオークを斬っただろうと、憶測で数える。
戦意はいまだ健在だ。
もっともっと斬らなければ終わらぬと、次の敵を求めている。
しかし、肉体の方は、限界をうったえていた。
動悸が、飛び出すのではないかと危惧するくらいにはげしい。
手足が疲労でしびれ、すでに自分のものではない感覚だ。
ライルは荒い呼吸をしずめるために、いったん立ち止まりかけ、―――やめた。
立ち止まることを、肉体は望んでいたが、心はおそれていた。
一度止まってしまったら、もうしばらく戦えないと思ったのだ。
無防備な姿を、この場でさらしていれば、あっという間にオークの餌食となる。
わかっていたから、何も考えないようにした。
一個の殺戮器械になったと思いこみながら、いかにして効率よく目の前の化け物どもを打ち倒すかをシミュレート、実行。
痛いとか、疲れたとか、そんな弱音は、全て終わってからでいい。
けれど疲労は、確実にライルという一個の器械の性能を低下させていた。
視野がせまくなっていた。
目の前の敵を降したとき、背後の敵に気づけなかった。
反射神経も低下していた。
背後よりふるわれる拳が、かわそうと身をねじりきれなかったライルの背にめりこむ。
ちらりと視界に入った得物は、槍だった。
槍の柄を、彼の腹部にたたきつけ、そのままなぎ倒す。
少年の発育途上のまだ軽い体は、いとも簡単に飛び、地をころがった。
「ッが…、あぁ、う…」
疲労のあまり、痛覚も鈍感になったらしい。激痛はじわじわと遅れてやってきた。
唾液だか胃液だかわからない液体が、激痛にあえぐ彼の口内から漏れる。
痛みに耐えるため、無意識で指が地を掻いている。
足音がする。さっきのオークだ。倒れ伏している少年へととどめを刺そうと、穂先をむける。
「―――爆光矢(イクスプ・アロー)!」
直後、顔が弾け飛んだ。
頭を失った体はふらりとよろめき、ばったりと倒れ、二度と動くことはなかった。
「こんなところで昼寝とは、大した神経だな」
嫌味っ気たっぷりの、青年の声が降ってくる。
「…ティルか」
嫌味に反論する気力もない。せめてこれ以上、この男の前で無様な姿をさらすまいと、懸命に立ち上がり、口元をぬぐう。
視線を向けると、さすがにティルも、いつものようにきれいな姿と涼しい顔つきではなかった。
「…助けられてばっかりだな」
借りがたまりまくって返済不能になりそうだ、とひとりごちれば、はなから期待なんかしてない、と返ってくる。
変わらぬ彼らしさに、ライルはつい小さく笑った。
剣の柄を強くにぎりしめる。
「ありがとう。大丈夫だ。まだ、いける」
「そうか」
素っ気なく、しかしどこか安堵したような声とともに、彼は弓の弦をひきしぼる。
ライルもそれに合わせて地を蹴ろうとし、
作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har