D.o.A. ep.17~33
外が戦場ならば、野戦病院も戦場だった。
すべてが瞬時の判断と的確な処置によって、目まぐるしくうごいている。
時を追えば追うほど怪我人は増え、そのうちのいくらが手遅れだっただろう。もうわからない。
衛生を考えて清潔に、と標榜していたが、かまってなどいられず、結局悪臭がただよっている。
痛い、とこらえきれずにうめき声を上げている兵士が横たわり、座りこみ、手当てを待っている。
「ああ…いかん。薬が足りなくなってきた」
物資を覗きこんだ軍医がつぶやく。リノンはその横で脚を怪我した兵の包帯を巻いていた。
いくらなんでも全員に治癒の魔術をほどこすのは不可能だ。
よって、一刻も早い手当てが必要な大怪我の時のみその力を発揮し、そうでもない怪我は普通の処置をほどこすことになっていた。
「私、取ってきます。さっき届いた荷の中にたくさんあったから」
リノンは作業を終えて、進み出る。じゃあ頼む、という返事を受けながら、箱をつかんで外へ出た。
記憶にあったとおり、山とつまれた医療用具の中に、目当ての品もならんでいた。
急いで箱へとつめこめるだけつめこみ、戻ろうとして。
「…?」
突然、何かがのしかかったような重苦しい感じを覚える。リノンは天をあおいで驚愕し、おもわず箱を取り落とした。
―――空が、黒い。
もちろんいまは、夜ではない。
体内時計が狂い始めており、自信はないが、昼を少しすぎたあたりだろうか。ともかく、夜ではないことは間違いない。
だというのに、黒いのだ。
空が青いことのごとく、まるで黒いことが当然のようにして、黒い。
底なしの闇のような黒は、呪いそのもののようだ。きっと、呪いを色に表せば、こんな色だろう、とも。
「ライ…が」
ライルが、死んでしまう。理由もなく、脳裏に結果だけがよぎった。
何によって危険なのかさえわからない。
戦場のまっただなかにいるのだ、危険に決まっている。でも、もっともっとおそろしい、こわいものがもうすぐあらわれる。
「-――――助けなきゃ」
与えられた使命など忘れ去ったかのように、リノンは彼のもとへと走り出した。
作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har