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D.o.A. ep.17~33

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絶えることのない剣戟や爆音の中、幾多の勇士の血が流れた。
いったいどこまで戦えば終わるのか、誰もがわからないまま、ただその場を生きながらえるために、眼前の敵を叩き伏せつづける。
思考回路には、いかにより効率よく敵を殲滅できるか、ただこれのみが駆けめぐることを許された。
自分が卑小な人間だという認識をすてさって、ただの一個の器械と信じる。
そうしなければ、オークのような化け物に立ち向かっていけなかった。

「ッは…はあっ、は…」
息があがり、鼓動がはげしくロロナの胸をうつ。
肺が痛い。
息が苦しいので、オークではなく、近いうちに、この息苦しさに殺されるのではないだろうか。
戦いに終わりが見えないのに、魔力の底が見えてきた。
汗に土埃がまじり、目に流れこんで視力を低下させている。
「……あ…」

はたと気付くと、オークがすぐ傍まで迫っていた。オークが手にした槍の穂先が襲いくる、しかし反応できない。
―――ここであっけなく自分は死ぬのかと、

「封じよ!!」

その瞬間、目の前のオークは黒い輪によって自由を奪われていた。
はっと目が醒めたように、体の感覚がするどくなった。
ナイフを一閃させ、動けなくなっているオークの緑がかった肌に突き立て、切り裂いた。
ばしゃっと異色の体液が上半身にかかり、オークは苦痛にもだえのたうつ。
黒い輪のせいでその動きも、陸で跳ねまわる魚のようで滑稽だ。だが、まだ息絶えない。
はやく、はやくとどめを刺さなくては、刃をひきぬこうとするが、深く食い込んで簡単に抜けない。
どうしようとおもった直後、オークの大きく開いた口内を、槍がつらぬいた。オークの持っていた槍である。
虫の息だったオークは、少しの間手足を痙攣させ、絶命する。

「…この大たわけ者!」
「ゆ、ユーラム少佐…」
「なにボサッと突っ立ってる!死にたいのか?!」
「も、もうしわけありませ…」
見上げると、見知った顔が、ものすごい剣幕で怒鳴りたててくるのでロロナはすくみ上がる。
ユーラムは、しっかり化粧をし香水の匂いをふりまく常の彼とは別人だった。
異臭の体液にまみれ、いくつもの傷をこさえ、うす汚れ、それでいて両目だけは凛とつりあがっている。
叱り飛ばし、ロロナの腕を引っ張りあげ、かまっているヒマはないとばかりにきびすを返した。
あわてて立ち上がって、追いすがる。
「あの、ありがとうございます」
「…助けたわけじゃなくてよ、お礼はけっこうです」
厳しい戦いで疲弊した精神が気をさかだてているため、あえて常のようにふるまうことで冷静になろうと努めているようだ。
それをさとって、ロロナは口を閉ざす。
これ以上無駄口をたたくべきではない。この人をいらだたせるだけだ。
冷静さを失うことがどれだけ不利をもたらすかを、ロロナも一応心得てはいる。
なので、ユーラムの背に心中で感謝の念をおくり、頭を再び切り換えた。
一体でも多くの化け物を討つこと。それこそが、助けてくれた彼に酬いる行為でもある。
魔力が底を尽きかけているのなら、自分がユーラムのサポートをすればよい。
補助などと生意気でおこがましいかもしれないが、自分とて、こんな場所で今まで生きて立って、戦っているのだ。
けっして、昔のように、役立たずで無力な存在ではないと言い張れる。

(征きます。今度はあたしが、)

そしてロロナは見つけてしまう。オークと戦うユーラムを狙う矢じりを。
魔術などで封じている暇はない。
一瞬が惜しい。
無我夢中で駆ける。頭は感情に支配されている。
生き残りたいと渇望する者のみが、生き残ることを許される戦場で、誰かを助けたいと願ってしまった。
たとえ自分の命と引き換えてでも――― そこまで思いつめてしまった者の運命は明白だった。
ユーラムが、オークの喉笛を切りさいた直後、放たれた矢は到達する。
そして、彼を貫くはずだった矢は、別の何かにはばまれた。

「…くぅ…っ!」
「!?」
鋭利な先端が、ロロナの二の腕を刺しつらぬく。しびれるような激痛が、ロロナを襲う。
ロロナの挺身に気をとられたユーラムは、喉笛をさかれたオークの余力を見逃した。
戦斧を持つそれが、視線をそらした彼に振りかぶった瞬間、
「て―――――ええぇええい!!」
気合の声が重なり響き、オークは背後から切り倒されてくずれおちる。
「…あんたたち」
現れたのは、ユーラムもロロナもよく知った姿だった。
「二人がかりでやっとってのは情けねえけど…ご無事ッスか、少佐」
「…レオグリットやソーティックが特別なんだろうがな」
汚れきって傷だらけであるが、間違いなくヘクトとダナルだった。
「あんたたちに助けられるとはね…まだまだってことかしら」
「んな言い方ないでしょ。おれらだって、」
ふっと笑うユーラムに反論しようとしたダナルは、腕をおさえて震える少女に気づく。
「ったく、馬鹿なことやらかして…!たしか薬と包帯があったわ」
「待ってください、ここは危ない、下がりましょう」

ヘクトのもっともな提案に、大きめの岩陰に入りこんで、ユーラムは懐をさぐる。
はたして探し物は見つかったが、ロロナの異変を感じとって眉をしかめた。
がくがくと震えつづけながら脂汗をにじませる彼女の体に触れると、おどろくほどの熱を発していた。
刺さったままの矢をにらんで、もしやと思いいたる。
「まさか、毒矢…?」
「あ…。それならミラファードが確か、解毒術を使えるようになったって言ってましたよ」
どの程度の毒であるかはわからないが、かなりつらそうだ。はやく治してやるにこしたことはない。
「野戦病院ね、わかったわ」
傷口を包帯で縛り、ロロナをかかえあげるユーラムに、彼らは目をまたたいた。
「しょ、少佐が行くんッスか」
「そうよ。かばわれたのよ。この子にね。責任があるわ。ダナル上等兵、ヘクト軍曹。すぐもどってくるわ…あとよろしく」
背を向けたユーラムは振り返らず、後輩に告げて野戦病院へと向かう。

彼の腕の中で、ロロナはうっすらと両目をひらき、空が黒いな、とぼんやり思った。


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作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har