D.o.A. ep.17~33
「落ち着いて、前だけ見てろ」
はやる雰囲気を抑えるように、ソードは目を細め、おだやかに笑んでいう。
「俺にはわかる、どんどん追いつめられているのはやつらだ。お前たちはただ、勝利を明確に信じてベストを尽くせばいい。
勝利の瞬間はかぎりなく近づいてる。俺たちが気張りゃ、もっと近づく。―――なあ。さっさと済ませて、家に帰ろうぜ」
まるで日常のように、重苦しさを感じない激励だ。それなのに、どこまでも心に重くのこるのはなぜだろう。
兵士たちから無用の緊張がとれてゆく。
そして、自分たちの求めるものは、輝かしい栄光ではなく、ただ、ありきたりの日々に帰ることなのだと思った。
それきり口を閉ざした。
充分だった。
その心境はソードという大きな男に支えられたところが多分にあるだろうが、勝利を日常へ帰ることと直結させた彼らの表情は、先ほどより明るい。
戦いにすさんだ心が、家に帰りたいと、たまらなくさけんでいる。
それは、願いというより、むしろ本能的な欲求に似ていた。
兵たちの日常への飢えは、ある意味、ソードへの信頼に勝るものであろう。
もし、ソードが斃れることになっても、その強い気持ちがあるかぎり、士気が落ちることはそうあるまい。
彼らの双眸は、戦意に満ち満ちていた。
ソードは、安堵したように、かすかに息を吐いた。
―――その直後だった。
背後からの、あわただしいひづめの音に、一同びくりと背筋をこわばらせる。
何事かと振り返る。馬上にて鞭をふるう二人のロノア兵だった。
突入の命令だろうか。しかし、いくらなんでも早い。
それに、こういった通達の方法ではなく、烽火などを用いる予定だったはずだ。
みなが疑問に途惑ううちに、馬は高いいななきをあげ、目の前で止まる。
「武成王閣下。火急の用件であります。どうか、王都へご帰還ください」
馬から下りることもなく、その二人組のうちの一人が、やや青ざめた顔色で告げた。
言われたことを一瞬理解できず、みなは目を見開く。
どういうことだとソードが質す前に、もう片方が、一刻をあらそうようにまくし立てた。
「モンテクトルに、オークの軍団が現れたのであります、まったく、突然に!」
作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har