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D.o.A. ep.17~33

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オーク軍団の陣地はいまだなお、ロノア軍の熾烈な抵抗により、おおかた沿岸部のみにとどまっている。
ロノアとしては、敵勢を右翼、左翼に分散させ、武成王ソードふくむ突破力のある部隊が、うすくなった中央を蹴散らし、大軍港の奪還を遂げることが大目的である。
第2軍のにがい突撃の二の轍をふまないよう、例の観測所のある高地へ砲台をとりつけ、大軍港を砲撃し、かのおそろしい砲弾をもつ敵船団をできるかぎり海の藻屑としたい。
それには、高い威力と命中精度と、飛距離の長い砲が必要不可欠である。
陸軍の砲では不可能だったが、ロノア誇る大艦隊がほぼ使い物にならなくなったここに来て、ようやく海軍から最新鋭の砲を陸軍へ借り入れることができた。
ただし、ほぼ壊滅状態の大艦隊のかろうじて無事だったものと、予備のものだけなので、さして数がない。
戦場のオーク軍団へ向けることができないのはそのためだった。

大半の兵が一対一において、まずオークに敵わないので、実際は三倍あまりと対峙していると考えると、現時点の総戦力としては圧倒的に優勢とはいえなかった。
時間を経過させればさせるほど、オークの予備兵力は増えていくだろう。
こちらの総兵力は固定されているが、あちらの兵力の総数は、今のところ不明だ。
最悪の場合、この地上にいるオークすべてが敵の総力である可能性もある。
いったいどれほどか想像もつかない。士気が下がること請け合いのおそろしさだ。
さすがにそれはないと願いたいが、とにかく、早めに大軍港を奪還しなければ、さらに不利な戦況に追い込まれていくことは間違いなかった。
ロノアは、大艦隊をほぼ鉄くず同然にされてしまったために、制海権をうしない、敵勢の限りない補充を止められない。
短期に片を付けることが、あらゆる危機を防ぐため、肝要である。

オークは、強い。
体が大きく、とにかく力が強い。
たったそれだけの優越が、ロノア王国軍の約5分の3をもってして、苦戦に至らしめていた。
今まで戦ってきた数とは桁違いだ。
魔物と人間の戦いの歴史がいかに古けれど、かつてこれほどのオークの大軍勢と鎬を削りあった国は存在しまい。
死傷者は時を追うごとに増えていったが、すこしずつ、「オークとはいかに戦うとよいか」を、体で覚えだす兵が増えだしてもいた。
そういった覚えのよい兵の活躍により、徐々に中央のオーク軍勢のかたまりが、左右翼への兵力の分配をおこないはじめている。
したがって中央は、こちらの期待通りうすくなり、突破部隊は、心を研ぎ澄まして己が出番を―――突入の合図を待っている。
その中でソードは、グランドブレイカーの柄に両手をそえて、彼方を見すえていた。
彼の堂々とした巨体と、その冷静さは、ただそこに黙ってたたずんでいるだけで、周りに勇気と頼もしさを与え続けていた。

彼の放つ力強さは、カリスマ的だった。
武成王とは、国軍、すなわち陸海軍の、最高責任者である。
彼が武成王となったのは、10年以上も昔の話だ。
ふつうなら、三十路に毛がはえた程度の軍人は、若造とあなどられても仕方がない。
武成王とは、形式上は元帥の上ということになるが、実際は軍隊の階級制の外にある特殊な役職である。
すぐれた人格と知性と、なにより豊富な経験と、おおきな信頼が一個の人物にそろいさえすれば、戦士として特別にぬきんでている必要はない。
経験とは、軍隊に所属している期間であり、それなりに年を――せめて50歳――重ねていなければ、武成王や準武成王にはなれないのが通例だった。
その暗黙のおきてを、ソード=ウェリアンスという男は打ち破ったのである。
つまり、その人格と強さとカリスマ性が、三十路の若造をして、周囲に絶大なる武成王適性を認めさせてしまったのだ。
まわりの者に、この男のくだした決断はきっと正しい、とおもわせる何かを、ソード=ウェリアンスは、若くしてすでに備えていた。
彼という掟破りの存在が、他国を「やはり軍隊の長は誰よりも強い戦士であるべき」という年齢を重視しない傾向へとみちびきつつあるのも、事実だった。

準武成王に一切の権限を投げうち、おのれは戦場に一兵卒として立つ。
彼の行動は、一般常識としては無責任極まりないことかもしれない。
しかし、正体不明の敵勢に、兵たちを憂いなく立ち向かわせるには、軍務最高権威として後方に控えているよりも、ただの戦士として同じ場に立つことこそ適切といえただろう。
ソード=ウェリアンスが、同じ戦場に、味方として立ってくれている。
このことに勝る心の安定があろうか。
ゆるぎなき信頼が、ロノア軍の兵士たちを凶悪無比の怪物どもに立ち向かわせる原動力の、大きな一つとなった。

誰もがあこがれをいだき、尊敬のまなざしをそそぎ、最強とあおいだ。
あのヒトがいるなら―――あのヒトが一緒に戦ってくれるなら、どんな敵であろうと大丈夫だ。
勝てぬ道理など、どこにあろう。そう、信じていた。






作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har