D.o.A. ep.17~33
Ep.25 第3軍の戦い
突如あらわれたオークたちに、フェン村の駐屯兵は総出であたった。
夜間視界の利かぬ戦いだったが、幸運なことにオークは人間とまったく体型がちがい、識別はさほど難しくはない。
ただ、噂にたがわず、オークは人を凌駕する力を持っており、数はこちらが圧倒しても決して油断ならぬ相手であった。
「爆光弾(イクスプ・ブリット)!」
ティルの魔術の詠唱が終わり、閃光が幾筋も解き放たれた直後、3体のオークの肉体が破裂、四散する。
「―――封じよ!」
「はああぁッ!!」
ロロナの魔術に腕を拘束されたオークが、裂帛の奇声をあげたライルの剣撃をまともに受けた。
バランスをくずすオークの、鎧におおわれた腹を蹴りたおし、とどめを刺す。
それが、この場の最後の一体だった。
数はさいわい、さほど多くはなかったが、
「…みんな無事…というわけにはいかなかったか」
ヘクトが剣に付着した体液を払い、まわりをうかがう。
皆疲労しきって、つい先程まで生きていた仲間が幾人も無残な姿で倒れていた。
「くそっ…、もう、死んじまうのかよ…ッ」
ダナルが悔しげに、遺骸の目を閉じさせて、唇をかみしめる。
激戦がおわり、ヘクトは周囲に敵の気配がないことをティルに確認する。
平凡な兵3人分の戦力であるはずのオークを、ティルは1人で何体も撃破していた。
空はすっかり白んできている。
「武器は、あんまりよくないみたいだ、…見て」
ライルはいって、倒れふすオークの持っていた槍の穂先をつよく踏みつけると、やや曲がった。
オークの怪力はものすごいが、わけのわからない砲弾の技術にくらべ、各々所持する武器はむしろロノアより粗悪である。
海戦の噂を聞くと、まるでちがう勢力と戦っているかのような印象を受けてしまった。
けれど、同じ勢力であることを雄弁に語るように、重そうな鎧には見たこともない模様が刻んである。
羽と、蛇と、炎だ。
これは、敵船が掲げていた旗と、同じらしい。
よく見れば、蛇には尾のあるべきところにも頭があり、両側が口を開いた頭である。
「気持ち悪ぃ模様だな」
ダナルがライルの隣にならんで、まじまじとその模様を観察する。
そもそも、魔物のオークを手駒として使っているあたりからして、想像もできない勢力である。
いったいこれらは、どこからやってきて、なんのためにロノアを狙っているのだろうか。
「デッド…か」
ティルの独り言はほとんど吐息に近く、ライルは気づかなかった。
「―――フェンに戻ろう」
フェン村部隊責任者ユーラム=オルドリーズ少佐は帰還した彼らのはたらきをねぎらった。
次々とリノンたち治癒術士のもとに、怪我人が運びこまれていった。
彼女はライルのそばにいたがっていたが、治癒術士は重宝され、後方にいることが決まったのである。
フェン村の付近に出没したオークはどうやらそれきりだったが、現れたからにはすでに大集団も揚陸しているのだろう。
たしかに第三軍の地域は見通しが悪いが、警戒していたにもかかわらず上陸を完了するとは、なんという手際よさだろうか。
相手は、トータスの地形を知り尽くしている。
でもなければ、初めての戦場でこうもたやすく上陸できるはずがないのである。
ロノア王国軍は、相対するまで敵のことがなにひとつわからないというのに―――
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作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har