D.o.A. ep.17~33
「ハァイ。ごくろう、ライルちゃーん」
「アタマいたいです」
「あらカゼ?」
「脳ミソふりしぼりました」
24班担当であるユーラム=オルドリーズ少佐に、完成した書類を手渡しに行くと、
「お休みなのに大変だね、レオグリット二等兵くん」
雑談に来ていたらしい、ユーラムに負けず劣らず華やかな人物がねぎらってくれた。
その人は、アンジェリーナ=イレース少佐といい、ユーラムと違って正真正銘の女性である。
軍服を改造し、脚も胸元も出血大サービスしており、まあ悪くはないが、それより寒そうだなあ、とも思ったりする。
「いやあの、逢引中に無粋なもの持ち込んでどうもすいません」
「あはは!ユーラムくんは部下にユーモアも教育してるのかな」
割と真剣に謝ったら、けらけら笑いとばされた。ただの友人らしい。
「今度、ウィクセンで人気の香水店が王都に出張してくるから、休暇合えば行きましょうねって話よ。ライルちゃんはどう、こ・う・す・い」
ウィクセンとは、西方の大陸にある大国であるらしい。
世界でもっとも魔術の研究が進んでいるといわれる国で、国家予算の4分の1は魔術研究にそそがれているとの噂だ。
ライルには畑違いでさっぱりだが、魔術とはいまだ仕組みがわからぬことが多く、解き明かせば理論上、大魔術を簡単に発動できるという。
魔術のすごさしか聞き及んでいない国だったが、香水もすごいのか。
「そんなにいいんですか」
旨い飯の匂いがこの世で一番よい匂いだと信じているので、別段興味はなかったけれども、切り捨てるのも悪いかと考えたライルだった。
「そりゃあもう!ウィクセン香水の薫り高さは随一よ!!思わずため息の漏れるような甘美で爽やかで魅惑的な芳香!!」
「今度出たヤツなんて、あの香水にうるさいウィクセン武成王のオスミツキなんだよ!ビンはファリアダグラスだし。期待するなってのがムリって話だよねー!」
二人の乙女に力説され、目が点になる。というか、武成王のオスミツキ?
ライルの中の武成王といえばなによりソードである。香水とは無縁の、むくつけき大男である。
全国の武成王が皆一様にそのような姿形とはさすがに思わないが、化粧などとは縁のない武人の連中だろうとは想像していた。
…それが香水好き。
イメージが困難で、頭の痛みがさらに増しそうである。
「ライルちゃん、なにも香水は女のためだけのお化粧道具じゃないわよ」
「紳士淑女の身だしなみってヤツだね、心身リラックスの効果もあるよ。キミも香水に癒されるべき!」
リノンは好きだろうか。彼女にはいつも心配や世話のかけだおしだ。プレゼントしたら、きっと。
「…いいすね。いつからどこで?」
二人は一様に目を輝かせた。興味がありそうと見て、喜んでいるようだ。
「2週間後から一ヶ月間よ。場所はアメアス通り、店名はフリーデン・ブリーゼ」
たしか化粧品・服を取り扱う店が立ち並ぶ通りである。足を運んだことは少ない。しかし、紳士服店もあるので女性天国というわけでもない。
リノンの喜ぶ顔を想像すると、少しだけ心が弾んだ。
「あ。ライルちゃんには言ってなかった。明日から当分特別合同演習ね」
「何ですか、特別合同演習って」
「…まあ、くわしいことは明日説明するから。時間はいつもとおなじだけど、くれぐれも遅刻しないように」
敬礼をして退室する。
ティルを探そう、と思っていた。彼には訊きたいことが山ほどある。
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作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har