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D.o.A. ep.17~33

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Ep.21 祭夜





「お父さま、見て!きれいな花火!あれは…まあ、星の形!」
王宮のテラスから観る花火は、何もさえぎるものがないだけに絶景だった。
愛娘のアイリシャーネ姫のはしゃいだ声に、父であるセヴァルズ=ジュラルディン=ロノアは満足をおぼえる。
この、だれの心をも弾ませるような笑顔が見たかったのである。

王には二人の子がおり、彼女の兄のヤッファーニはレニシア共和国に留学中だった。
王制であるロノアとまったく異なる国のあり方と、機械(マシン)について――むしろこちらに重きを置いていたようだが――どうしても学びたいという、かねてからの要求に折れたのは、ちょうど1年前だった。
兄が去りただでさえ寂しがっていたところ、しずんだ空気に敏感に反応したアイリシャーネは、ちかごろ鬱々としていた。
なんとかして気をまぎらわせてやりたかった。
民心を元気づけたかったのもあるが、なにより、亡き妻の面影を濃く宿すこの娘を、王は愛したのである。
この娘を楽しませてやりたいという、一種のわがままをふくんだ要求のために、まわりにはずいぶん苦労をかけていることだろう。
「お父さま、…うかぬお顔」
「なんでもないのだよ、アイリや。お前が楽しいなら、わしも楽しい」
「…兄さんも一緒なら、もっとよかったけれど」
「来年の今頃には帰ってくるとも。今年よりもっと大きな花火をあげさせよう」
言いながら、王は心中で、すまぬと娘にわびる。
本当ならば今日はヤッファーニの姿もこの国にあるはずであった。
王国最大の祭りのこの日のためだけに、一時帰省をする予定だったのを、断じてならぬととどまらせたのは王自身だ。
ヤッファーニとは、己がこうと決めたらテコでも動かぬという、じつに頑固で闘志盛んな男だった。
王都に敵が到達すれば、王子の身でありながら武器を手に率先して飛び出していくであろう。
王子がその戦いで命を落としたら、王国はどうなるのか。考えるまでもない。
「諸々の事情により今年の王国祭は中止するが、たいしたことはないので帰る必要はなし」
宣戦布告があってすぐに、このような旨の手紙をしたため、既に届けてある。

そして、なやみ多きこの王は、先ほど口にした言葉に自ら反問する。
―――「来年」?
はたして「来年」などというものがあるのか?
そんな不吉な考えが、こびりついたように心の奥底からとれてくれない。
武成王ソードひきいる、ロノア王国軍の精強さをこの世で一番信じたいのは、セヴァルズ王であろう。
大幅な増強をゆるし、ロノア王国海軍を世界最高峰におしあげたのは、すべてこの、海のむこうからやってくるであろう敵との戦いのためだ。
その世界最高の海軍を打ち破れる勢力が存在するはずがない、とおもいたい。
しかし、そんな弱気にかられてしまうのは、老いたということなのだろうか。
若いころは息子同様、冒険心盛んだった。否、彼以上に土地も富も女もほしかった。確実に息子はその血を受け継いでいる。
しかし、年月を経るにつれ、落ち着きを得た王の理想は、小さく丸く、へとかわった。
(平々凡々につつがなく、この国をおさめてゆきたかったが)
若いころに望んでやまなかった波乱万丈なる運命が、老いて平穏を求めるようになってからおとずれたかたちだ。
そうおもうと、皮肉なものを感じざるをえない。

「来年は、家族みんなで…今から楽しみにしております、お父さま」

花火のかがやきに照らされたアイリシャーネ姫が、夢見るようにつぶやく。
この場、王ではなく一人の父としては、来年も、再来年も、願わくは天寿全うまで生きて、この愛しい娘と、今は遠い地にいる息子と、三人で。
三人で、花火をながめて、祭りをたのしみたい。
ただそれだけの夢は、眼前に迫らんとする怨敵にはばまれ、ひどく遠く、それだけに慕わしかった。


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作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har