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D.o.A. ep.17~33

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家族水入らずのところをお邪魔しては悪かろう、などと遠慮する暇すら与えられず、ライルはキースによって病室に引きずっていかれた。
「マリー!!」
扉にぶつかるようにして入りこんだキースは、ベッドに走りよるが否や、
「よくやった、本当に、よくやってくれた。ありがどう…!」
と身も世もなくつっぷしておいおいと泣きはじめる。
「あなた…泣くのはせめて、赤ちゃんの顔を見てからにして」
ベッドに横たわるマリーは、少々顔色がわるく憔悴しているが、おおむね無事そうであった。
マリーの手のひらが、夫の肩をいつくしむようになでる。
かたわらの寝台の赤子は、騒ぐ父になんら驚くこともなく、つるりとした安らかな顔で寝息をたててつづけていた。
「ライルくん。きてくれたのね。うれしいわ」
「えーと。なんていえばいいかな、…おめでとう、ございます」
「ふふ、ありがと」
にこにこと笑う。
もともと美人だったが、今はこうして産褥で顔色もよくないのに、今までで一番きれいに見えて不思議だった。
おそるおそる赤子をのぞきこむ。色がぬけるように白く、予想以上にたよりない。
親は、子のここがどちらに似ているとか言い合うが、ライルは当人たちではないのでよくわからなかった。
ただ胸がしめつけられ、衝動にまかせてつい手を伸ばしてしまい、寸前でマリーをうかがう。
とがめることなく様子を見ていてくれたので、そろりと指先で、おそろしく小さな手に触れてみる。
すると眠りのうちにライルの指を無意識できゅっとにぎってきた。
自分の血など一滴も入っていない赤の他人であるのに、ひどくいとおしくなった。
この新しい、無垢なる生命の力に触れ、ライルは己の中で気体のように浮いていたものが、形になっていくのを感じていた。
「マルローネさん、…俺、わかった、わかったんだ」
「ん?」

「―――俺はぜったいにこの子を、俺にしたくない」

言ってしまってから、しまったと目が泳ぐ。
心に浮かんだそのままの気持ちを口に出したら、さっぱり意味がわからなくなった。
なんと説明したらよいものか、ライルは渋面でなやむ。
「なんだ、お前にわかに…どうした」
ライルの発言をいぶかるあまり、涙の流れが止まったらしいキースが見つめてくる。

「いや…だからその、つまり…。 兵士になったこと、リノンに報告したとき、反対されてさ。
お金のため、みたいに理由付けしたんだけど、それは目的であって、願いじゃ、なかった。
俺はいったい何を願いながら戦うのか、自分でもはっきりしてなくて…。
…その答えが、今やっと、たしかになったんだ」
「それが、さっきの?」
「…うん」
まぶしいものに対するように目を細めて、指をにぎってくれる赤子にほほえみかける。

「この子だけじゃない。できるかぎり多くの子を、俺みたいな目に遭わせない。不幸にしない。…それが、俺の願いだ。
―――俺は子供が親と、一分一秒でも長く一緒にいられるように、それをひきさこうとするやつらと戦いつづける」

おのおの家庭の事情はちがおうと、子は親とともにいて、愛されることが幸せなのだと信じている。
その幸福を、ある日唐突に、心なき者にうばわれる絶望を、悲しみを、孤独を、せめて己の手が届く範囲だけでも、なくしたいと願った。
子供たちを守って幸せにするなどと大それたことは言うまい。それは、親の役目だろう。
それこそが、だれに影響されたものでもない、彼のうちから純粋にわきあがった望みだった。

「…それはとても、たいへんな道ね」
マリーはぽつりとこぼす。

「でも、とてもたのもしいと思ったわ。…がんばって、ライルくん」

新しい母親はそう、はかないくらいの微笑に似合わない、なにより力強い声援をくれた。


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作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har