D.o.A. ep.17~33
Ep.20 いとしきものたち
どもるあまり、要領をえないキースの話をかいつまんで言うと、一言ですむ。
彼の妻であるマリーの胎内にやどった新しい命が、満を持して今夜生まれ落ちるという。
「…もう生まれてるとばっかり思ってた」
「ば、バカ野郎め。生まれてりゃとっくに知らせてらい」
買ってきた飲み物と、病院のほうをしきりに見比べるようにしており、せわしなさがこちらにまで伝染りそうだ。
数ヶ月前に「そう遠くないうちに生まれる」とリノンから耳にしていたが、出産予定日よりたいぶ遅れていた。
マリーは初の出産にもかかわらずけろりとしていたが、キースとしてはもういてもたってもいられぬ心境だった。
いざというときは女のほうが肝が据わると聞いたことがあったが、まさにその典型である。
今日の昼すぎ出産のきざしを見せ、仰天したキースは矢も盾もたまらず仕事をキャンセルし、病院へ転がりこんだ。
最初は妻の手を涙目でにぎり、がんばれと声をかけていたのだが、あまりにもうるさいので退出を命じられてしまったらしい。
「だって、あんな苦しそうなあいつ、初めて見たんだよ…」
「だからっておっさんが騒いだってどうにもならないだろ」
「わかってるよ。でも理屈じゃねえんだよ。お前もいつか父親になるときは、俺の気持ちわかるはずさ」
キースは愛妻家で村でも評判の男であった。
酒好きで飲むと暴れたし、ヘビースモーカーでもあったが、結婚してからそれらときっぱり決別している。
いい父親になるだろう、とライルは確信していた。
「可愛い子だといいな」
「母子とも元気なら何だっていいぜ」
手にしていたジュースを一気に飲みほし、キースはまた不安げに病院を見上げた。
容器を握りつぶしクズかごへ放りいれると、いのるように両手をくみあわせる。
「リノンが名前考えてあるっていってたぞ」
「そうか…たのしみにしてる」
そんな調子で、しばらく二人ならんで座り、時を過ごしていた。
かれこれ二時間は経過したころ、病院正面口より看護婦らしき若い女があわてた駆け足で出てくる。
「キースさん!キース=ジーンさーん!」
「ふぁ、は、はは、はハイ!俺です、お、俺がっ、キース=ジーンさんです!」
やっと気分が落ち着いてきたと思ったら、呼び声に再び跳び上がり、がちがちになって返事をする。
看護婦は駆けてくると、すこし眉をつり上げた。
「もう、さがしたんですよ、どうして病院の中にいてくださらないんです!」
「す、すんません。そ、それで、なにかありましたか」
「産まれましたよ、元気な女の子ですよ!奥さまもお元気です!」
彼女がそういった途端、キースは目から涙を滂沱とあふれさせた。
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作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har