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杉が怒った

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研究所は閉鎖されてはいるが、すべて元通りだった。【ジン】との接続を絶った今は電源も戻っている。研究室内と研究林側から【ジン】を観察することが出来るが、日野は花粉がいくらか入りにくいだろうと思われる室内から観察することにした。部屋に入るとS博士の苦悶の姿が思い出された。そして日野自分もあの嫌な症状を思い出した。日野は呼吸を整え、ゆっくりと窓際に近づいて【ジン】を見上げた。そうか、あの日は窓を開けていたのだったと、日野は思い出した。もし窓を閉めていれば安全だったのだろうか。答えは出ない。まだ、花粉の毒と確定されたわけでは無いのだから。

そこまで考えた時、唐突に《【ジン】がケーブルを通してPCのモニターかPC本体から毒を照射する》という、荒唐無稽な考えが頭をよぎった。科学的とは言えないがそれならば、博士と自分の症状の差が説明できる。あるいは自分と同じ毒を吸った上に、【ジン】と繋がっているケーブルを通して、高圧電流のようなものを送り込まれた。日野は、一応科学者の卵である自分がそんなことを考えるのを、頭を振って否定しようとした。じゃあ、花粉は実在するのだろうか。と、ここに来た目的を思い出して、カメラを望遠にして【ジン】の杉の花を探した。

【ジン】は大木である。室内から見た限りでは杉の花は見当たらなかった。外に出て少し離れた場所、それも数箇所から観察せねばならない。離れた場所はもしものことを考えた場合にも合致する。日野は念のために防毒マスクを装着し、試験林の中で一番よく【ジン】を見渡す場所に向かって歩き出した。

細い坂道を少し上ったところで小鳥の死骸をみつけた。記憶に間違いがなければ、この小鳥は杉の花を食べる筈だった。日野は体が緊張するのを感じた。防毒マスクがきちんと装着されているか確認したあと、死骸を跨いで先に進んだ。


作品名:杉が怒った 作家名:伊達梁川