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森氷魚(もりひお)
森氷魚(もりひお)
novelistID. 35346
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とどろく閃光

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 ACT2 美少女

 あの子もでも、すっかり大人になっているんだろうなぁ。

 園子が昔遊んだ幽霊屋敷の子供、園子よりだいぶ小さいように思えたけど、あれから8年ぐらいたっているわけだし、園子もすっかり大人だし。

 幼馴染の再会・・・うふ

 なんだかとてもかわいい子供だった。海外の絵で見るような。

 でも、なぜ、姉龍香がその住所を書いたメモを持っているのだろう。

 あのとき、園子を呼ぶ姉たちの声がして、園子はその子供にバイバイを言って別れたのだけど。

 とってもかわいい女の子だったけど、あるいは男の子だったのかもしれないけど。

 高原行きのバスを降りて坂道をしばらく歩き、遠くに幽霊屋敷があるあたりの塀が見えた。かなり大きな敷地なので、塀だけは遠くからも見える。その塀が、城壁みたいに見えて、どんな建物が中にあるのか期待を抱かせるのだけど、そこには廃屋のような家しかないのを既に知っている。

 そのあたりは地元の学生たちがよく立ち寄るハイキングゾーンがあって、有名な場所なのだけど、坂を上った頂上あたりにそんな廃屋があると知っているのはそう多くないように思われる。

 こんな寂しい場所に住んでいるなんて、寂しかっただろうなぁ・・・・

 それにしては、とても楽しそうな元気な子供だったけど・・・?

 だいいち、車も登れそうにない細い坂道だし、あんな小さい子供がどうやって学校とか通ったんだろう。

 少し上ると、空気がさっと変わった。森林の空気だ。
鳥や虫の声がざわざわっと広がる。樹木が作ったドームに反響したのか、古木のむろの中を駆け抜けたのか、あちこちにエコーが広がって方向感覚を狂わせる。

 しっかり歩いていないと危ない。

 夏なのですっかり気を抜いていたけど、少し寒い。園子はスニーカーにミニスカート、アニメのトレーナー姿だ。スカートのポケットに手をつっこんだ。

 なんだか、ますます荒廃してきている。

 崩れた塀が見えた。園子たちが昔ハイキングした場所は生い茂った草むらに覆われてもはや広場の姿を呈していない。

 もう引っ越してるかもしれないな。

 それほど人が住んでいるとは見えない場所に、幽霊屋敷の屋根がいきなり視界いっぱいに広がった。いつの間にか庭の中に足を踏み入れていたらしい。
 深い森の木々にさえぎられて、目の前に来るまでほとんど家の姿が見えなかったみたいだ。
 
「不法侵入者?」

 背後からいきなり呼びかけられた。振り向くと

 小さな女の子が立っていた。5歳か、7歳ぐらいなのか。人形のようにかわいらしい。でも、その目はまるで大人のように意思が強い。

「あ、いや、あのその。」

「博士の知り合いなのかな。」

 幼い子供にしてははきはきしゃべる。

「そ、そう。ここに姉が来ているんじゃないかと思って。」
   
「ああ、実験データを取りに来た食品会社の人かしら。きれいな大人の女性だったわ。」

 園子はうなずいた。やっぱり姉が来ていたのだろうか。

「どうぞ。」少女は先に立って歩き出した。
園子はついて行くしかない。

 この少女が園子が昔遊んだ子供のはずはない。人形のように時が止まったのでもない限りは。だけど思い出の中に出てきた子供と重なって、なんだか館と少女だけが時が止まって古い写真の中から出てきたように園子は幻惑された。

 館の裏には古い屋敷にそぐわない近代的な扉があって、そこを開けると、中は思いがけなく新しい内装になっていた。
無味乾燥な、何もないがらんとした廊下。アンティークな調度でも現れるかと思ったのに。普通のビルの中に入ったかのようだ。

「思ったよりきれいでしょ。」

 少女はふふっと笑った。

 小さな外見にそぐわず、さっきからずっと大人っぽい口を聞いている。園子がびっくりして表情をいちいち変えているのを読み取り、面白がっているようだ。

「どうぞ」
 少女が開けた奥の扉に園子が入ると、そこには男の子がいて振り返った。

 実験室のようだ。少年は白衣を着ている。園子と同じくらいの背丈か、漆黒の髪に色がとても白い。

(あの子だ。)

 園子にはすぐにわかった。

 すっかり成長していたけど、面影が残っている。まだ大人になる前の幼さが残っている感じだ。明るく無邪気な目はあのときのままだ。

「え、誰?」

 少年の明るい目は瞬時に怯えに変わった。

「あ、脅かすつもりはなかったんだけど。」
 園子はすぐに言って少し下がった。

 少年は戸惑いながら少女をたしなめる口調で
「誰でも連れてきちゃだめだよ。摩訶」

 まか 摩訶、少女の名前だろうか。

 摩訶と呼ばれた少女のつぶらな目に怒りの火がぱっと点る。

 少女は園子と少年の間に割って入る形で少年に向き合った。

「オタク!ひきこもり。」
 かわいい口が罵倒する。
「何だって?」 少年は赤面した。

「あなたは友達作らなきゃだめなんだって。」と、少女。

 なんだか話が食い違う。園子は状況がわからなかった。
「あのぉ」 おずおず話し出した園子をふたりが同時に見た。
「いちおう自己紹介しますね。緑園子です。えっと、あなたは。」

 少年は全然知らない人を見る目で園子を見た。忘れられているのだろう。当然だろうけど。
「あたしは摩訶。この子はみつる ね。」
少女摩訶が代わりに答えた。

 みつる・・・へーそうなんだ。
「園子は食品会社の関係者なんだって。昨日来てたってあたしが言ったでしょ。博士のお客様ね。」

 少年 みつるは園子をじっと見つめた。まつげがとても長い。綺麗な目をしている。庭で出会った無邪気な子供のころのままだ。あの時庭で一緒に走り回って、なんだか野生ののら猫と戯れているかのような感覚になったものだ。それぐらい、不思議なひとときだった。人間じゃないみたいな。
 だけど今、目の前に立っているのはすっかり成長して、白衣に身を包んで、大人びた風をしてはいるけど、日の光のような明るいまなざしは変わらない。

「正確に言うと、関係者の家族ですけど。」 園子はコホンと咳をした。

「しぃっ あいつが来た。」
 みつるが唇に人指し指を当てた。

 扉をノックする音がすぐに聞こえた。

「向こうの部屋に隠れて。」
研究室の奥の小さな部屋に園子は押し込まれた。

 そのとき、少年の体からふわっと花の香りが漂った。

 あ、この匂いは・・・

 時間を遡って、園子の記憶が戻っていく。あのとき庭で走り回って、逃げる子供を捕まえたときにやはり香ったものではなかったかしら。

 何の匂いだろう?薔薇・・・ではない。ラベンダー?時をかける少女か。

 小部屋は真っ暗だった。押し込まれた途端、研究室の扉が開いて同じく白衣姿の男性が入ってきた。

「今、誰かがこの屋敷に入って来ただろう?」

 知らない。ふたりは首を横にふった。知らん顔を決め込んでいる。

「そんなはずはない。」
男は部屋じゅうを捜しだした。まずい、ふたりは顔を見合わせた。

 あの人誰だろう。みつるのお父さんかしら・・・それぐらいの年の声に聞こえた。園子はのんびり考えていた。

 急に園子は肩をぐいっとつかまれた。