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Life and Death【そのさん】

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そのさん「このアパートの住民は夜型が多すぎるよ」


 仄暗い部屋の中で、まず聞こえたのは女の悲鳴だった。
 そして続く喘ぎ声。荒く激しい息が二つ、その部屋の中に響き渡る。
『ダメだ、使いモンになりやしねぇ!』
 そしてその声を囲むように、男たちの声が響く。
『姉の方は取り出した端から腐りやがる。妹の方はどうだ』
『妹の方もダメですね、こりゃぁ。移植したらこうなっちまいました』
『ホントに使い道ないなぁ、お前ら。いっそ風俗にでも売り飛ばされたいか、あ?』
『これこれ、滅多なことを言うんじゃありません。こんな面白い生き物、他にはいませんよ。あなたたちはすぐモノを金に変えたがる。それでは大運を逃しますよ』
 その男は人の心を解すような、人好きのする笑顔で彼女たちに詰め寄る。
『さて、次はどのような実験をしましょうか』
 その様子を、ソレはじぃっと見つめていた。
 ソレに見つめられ、彼女は顔を強張らせる。恐怖と苦悶の入り混じった顔で、彼女たちはソレを見る。
 そしてその表情を、ソレはただ、自らの眼球で見つめていた。

 ――名前の知らない鳥が闇の中で鳴いた。シアはその鳴き声を聞きながら、目を覚ます。
 嫌な夢を見たのだ。だから、シアは思わず飛び起きてしまった。
 隣を見ると、姉がその白い背中をこちらに向けてすぅすぅと寝息を立てていた。
 たとえ死なないとしても、やはり寝ないと辛い。食事だってしなければ体が痩せ細る。ただ、その結果として当然ある筈の死が、彼女らには訪れないのである。
 だから、シアはすぐに寝てしまおうとまた寝床に潜り込む。明日だって仕事はあるのだ。
 すぐ傍に姉がいることを目と指で確かめる。そして、姉から離れないように、妹はひたすら朝が来るまで姉に寄り添う。
 隣の二〇五号室ではたった今帰ってきたのか、戸の音が聞こえた。どうやら、いつもの日課を済ませて帰ってきたのだろう。
 二〇三号室では、今夜も住人が騒いでいた。あそこに住んでいるのは一人だった筈だが、色々と同居人がいるらしい。しかも普通の人間には見えない何かだ。
 それらの雑多な静寂を耳にしていたら、ふと、床を何かが引き摺る音が聞こえた。
 ズッ、ズッ、という聞き覚えのある音だ。
 いや、まさか。アレがこんなところにいるわけがない。いる筈がないのだ。
 ズッ、ズッ。しかし、音は聞こえる。確かに聞こえてくる。
 気のせいだ、気のせいだっ! それが本当に聞こえているとして、それがアレであるという確証はない。だから、恐れるだけ損だ。
 歯の根が合わない。ガタガタガチガチと身体が震える。
 窓に目が行ってしまう。ダメだ。それはダメだ。窓に目を向けてはダメだっ!
 そいつは室内を見回していた。大きな目をぎょろぎょろと回しながら。
 ダメだ、見るな。目が合ってしまうっ!
 目が合う寸でのところで、寝返りを打った姉が、こちらへと腕を回す。
 シアはその偶然に感謝しながら、朝まで姉の腕の中で眠った。