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20日間のシンデレラ 第3話 黒魔術って信じる?

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川島のじいさん 「いやいや構わんよ。 わしも孫がいないんで寂しいての。 出雲君とお宅の息子さんは本当にいい遊び相手になってくれとる。 あの子はああ見えて芯の通ったいい子じゃ。 将来、本当に楽しみじゃわい……はっはっはっ!」

普段しわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして笑う川島のじいさん。

話の腰を折られ気分を悪くしている教師。

二人に声を掛ける。

教 師  「ちょっとすいません」

清 水  「なによ、あんた! あんまりでかい声でおじいちゃんに注意してるから聞こえてたけど、あんたも教師なら機械みたいに固いことばっか言ってないで、もっと感情をもって発言しなさい!」

勢いよく教師を攻撃する清水の母。

教 師  「あっ……すいません」

指摘をされ、しゅんとなる教師。

ここぞとばかりに酒を飲みながらとぼとぼと入り口に入っていく川島のじいさん。

上機嫌な声で、

川島のじいさん 「あんがとよ」

      
〇体育館


恵 子  「テクマクマヤコンーエロイムエッサイムーコウチョウノアタマハハゲカツラッ!」

先端に星がついた魔法の杖をぶんぶんと勢いよく振り回し、大きな声で呪文を唱える恵子。

勢いがよすぎて星が取れかかっている。

きらきら光るドレスに紫のウイッグをかぶり魔法使いを演じている。

すると目の前にあったかぼちゃが宙に浮いて消えていく。

ぼろぼろの服とほうきを持ってシンデレラの役を演じている花梨。

その光景を見て驚いている。

花 梨  「まあっ!」

舞台の袖を指差す恵子。

恵 子  「あれを御覧なさい」

恵子の指差す方から大きなかぼちゃの馬車が登場する。

きらきらと光を放ち、馬車のてっぺんには王冠が乗っている。

しかし、作りは立派なのに対して、馬は前田が、その馬を操る人を清水が演じていてこの上ない違和感を放っている。

清 水  「シンデレラ様、僕とこの馬車で夜の散歩に出かけませんか?」

手綱をぱしんと振り下ろす。

前 田  「ひひーん」

馬を熱演している前田。

恵 子  「シンデレラをナンパするんじゃない。 この下衆野郎」

魔法の杖で前田の頭をぼこぼこと殴っている恵子。

苦しんでいる前田。

前 田  「何で僕が責められてるんだよ」

花 梨  「まぁ、何て不思議なの? 馬がしゃべったわ!」

会場が笑い声で包まれる。

花 梨  「本当に素晴らしいわ。 あっ……でも私この格好じゃ舞踏会にはいけないわ……」

恵 子  「もちろんよ……おまかせなさいっ!」

今度は魔法の杖を花梨に向ける恵子。

真剣な表情。      

会場に響く程の大きな声で、

恵 子  「まっがーれっ!」

何も起きない。

恵 子  「いや違った……」

一人ぼそぼそとつぶやいている恵子。

呪文が何だったのか悩んでいる様子。

沈黙。

しばらくたって思い出したかのように笑顔で、

恵 子  「綺麗なドレスになーれー」

前 田  「普通かい!」

思わず馬が突っ込みを入れる。

花 梨  「何て不思議なの? 馬がしゃべったわ!」

パイプ椅子が突然倒れ、ずっこけている保護者達。

会場はさらに大きな笑い声に包まれる。

そして舞台の袖へと消えていく花梨。

しばらく経ち、綺麗なドレスを身に纏い、ガラスの靴を履いた花梨が再び登場する。

花 梨  「綺麗だわ……ふふふっ」

うっとりしている花梨。

去ろうとしている恵子。

恵 子  「さぁ、行ってらっしゃい」

驚いた表情の花梨。

花 梨  「えっ……一緒に来ては下さらないの?」

恵 子  「とんでもない、舞踏会なんて……それにもし私が舞踏会に行けば、私が王子様に選ばれちゃうもの」

くすっと笑う恵子。

恵 子  「私の仕事はあなたの望みを叶えてあげる事だけ。 後、どうするかはあなた次第よ」

花 梨  「でも一人で行くのは怖いわ……」

恵 子  「何にも怖がる事なんてないわ」

少し間を置いて、

恵 子  「でもね……絶対に守って欲しい約束があるの」

黙って頷く花梨。

恵 子  「今夜の時計の鐘が十二時を打つ前に必ず帰ること。 これだけは絶対に忘れては駄目よ」

花 梨  「でも何故? 十二時までに帰る事がそれ程、重要なの?」

恵 子  「あなたは何にも聞かないで。 ただ約束を守ってくれさえすればいいの」

再び魔法の杖を勢いよく振り回す恵子。

恵 子  「しっかりね、シンデレラー」

そういい残して消えていく恵子。

花梨と前田、清水の三人だけ舞台に残っている。

清 水  「シンデレラ様」

花 梨  「これは魔法なの? こんなの見た事ある?」

清 水  「ええ何度も」

花 梨  「私は初めてだわ」 

清 水  「約束をお守りください。 真夜中の十二時までにここを出ないともっとびっくりする事が起こりますよ」

花 梨  「分かったわ」

清 水  「けどその前に僕と夜のお散歩に……」

前 田  「まだ言ってやがる……気にしないで下せぇ、道はこっちです」

思わず馬が仕切りだす。

花 梨  「馬がしゃべったわ!」
      
舞台の袖へと消えていく三人。

そして一旦、黒い幕が下りる。

沢山の拍手が会場を包む。

          ×           ×           ×

〇舞台裏
 

イダセン 「次ーー出雲と池田、準備しろ。 名シーンだからな、練習の成果を見せて来い!」

陸と花梨の背中を後ろから軽く叩いて、送り出すイダセン。

舞台裏に残された花梨と陸。

幕の向こうから聞こえている観客の声。

二人の間に自然と沈黙が流れる。

緊張している様子の花梨。

真っ白なドレスに銀色のティアラを頭に乗せている。

無意識のうちに花梨を見つめている陸。

  陸  「(後三日で俺はこの世界からいなくなる……それも本当の思い出を代償に……泣いても笑ってもこれが最後。 もう同じチャンスは二度とない。 花梨……俺は君の笑顔が見たい。 過去の馬鹿な俺は君を傷つけてしまった……だからもう泣いたり、悲しんでる姿は見たくない……最高の思い出を……)」

ゆっくりと幕が開こうとしている。

  陸  「よしっ、行こう!」

黙って頷き、陸の後に続く花梨。

完全に幕が開き、近くの観客の顔がはっきりと認識できる。

タイミングを見計らって舞台にでる二人。


〇舞台


舞台の上からまぶしい程のライトが二人に降り注ぐ。

二人を迎えるかのように拍手と歓声が沸き起こる。

王子役を演じる陸。

  陸  「広間は人が多すぎる」

陸の第一声を聞いて、拍手も歓声も止み、静かになっていく会場。

花 梨  「月明かりに浮かぶ花の庭……ここの方が素敵ですわ」

  陸  「今夜は月もあんなに美しく輝いているし、ここは宮殿の中でも僕が一番好きな場所なんです」

突然、十二時を知らせる鐘が大きな音を立てて鳴り響く。

焦っている花梨。

  陸  「どうかしたのですか?」

花 梨  「帰らなければいけないのです」

  陸  「突然に何故?」