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20日間のシンデレラ 第3話 黒魔術って信じる?

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花 梨  「何故って……ある人と約束したんです」

  陸  「少しくらい遅れてもいいじゃありませんか。 僕はこんなにもすばらしい時間をまだ終わらせたくありません。 それにその人もきっと許してくれますよ」

花 梨  「それは駄目です。その人は絶対に許してくれません。 お分かりにならないでしょうけど、その人は……変わっているんです」

  陸  「あなたは不思議な人だ。 まだ名前も教えて下さいませんね?」

花 梨  「つまらない名前ですもの」

  陸  「どんな名前でも僕にとって世界で一番美しい名前です」

突然、自分が言わなければならない次の台詞の存在に気づき手が震えだす陸。

無理やりもう片方の手で震えを抑える。

額からは汗が流れ、呼吸も少し荒くなっている陸。

台詞が完全に止まる。

会場に流れる沈黙。

観客が不思議そうな顔をしている。

じっと陸を待っている花梨。

そのままの状態で動かない二人。

  陸  「(この瞬間をどれほど待ち望んだのだろう…………たったこれだけの言葉をどれほど言いたかったのだろう…………長かった……本当に長かった……けど……それももう終わる…………)」

大きく息を吐いて、自分自身を落ち着かせる陸。

真剣な表情で花梨を見つめる。

ゆっくりと陸の口元が動く。

会場に響く声。

  陸  「僕はあなたを愛しています」

変わらず会場に流れている沈黙。

陸の台詞が返ってきてほっと安心している花梨。
      
  陸  「(駄目だ……もう止まらない……)」

  陸  「今も……そして十年後も……ずっと…………」

花 梨  「えっ……」

驚き思わず口に出てしまう花梨。

突然、会場がざわざわと騒がしくなる。


〇舞台裏


清 水  「何なんだよあの台詞は! あんなの台本にあったか?」

ステージ衣装をまだ着たまま大声をあげている清水。

他の生徒達も混乱している。

清 水  「くそっ! やっぱりおかしいぜ、あいつ……」

イダセン 「落ち着け! とりあえず起きてしまったものは仕方がない。 このままアドリブであの二人が上手く誤魔化し切れたらそれでいい……しかし、万が一失敗してしまったその時は……」

舞台を見つめるイダセン。


〇舞台


長い沈黙を切り裂いて、再び話し始める陸。

その声は落ち着いていて、けどゆっくりと何かを噛み締めるように、
 
  陸  「帰らなければいけないと言いましたね? 実は僕もそうです……ある人と約束をしました……こんなにもすばらしい時間をまだ終わらせたくありません…………だけど時間は残酷にも進み……僕を元の世界へと連れ戻そうとするのです…………」

何も言わず、ただ視線を下に向けている花梨。

  陸  「…………何も言わないのですね……」

恐る恐る陸の方を見る花梨。

花 梨  「怖いんです……これは夢で冷めてしまうのではないかと思うと……」

へなへなとその場に崩れこむ花梨。
 
  陸  「…………」

言葉を失う陸。

突然の出来事に、舞台を見ている全ての人が驚き、固まっている。

花 梨  「けど何より……それと同じぐらい……あなたが…………怖い……」

花梨の目から大粒の涙が流れる。
      
花 梨  「うわぁぁぁぁぁぁあっ!!」

突然、会場全体に聞こえる程の大声で泣き叫ぶ花梨。

涙でくしゃくしゃの顔。

無造作に転がっている銀色のティアラ。      

乱れている純白のドレス。

時間が止まったかのように、その光景を見て絶句している人達。

突然、舞台の前に掛けていくイダセン。

マイクを手に持ちながら、

イダセン 「ご来校のみなさま、突然のこのような事態になってしまい誠に申し訳ありません。 生徒の練習の成果を楽しみにわざわざ来て頂かれた保護者の方々には残念なお知らせなのですが、5年4組のシンデレラは私、飯田が担任として誠に勝手ではございますが続行不可能と判断した為、この時点で中断とさせて頂きます。 申し訳ございません!」

深々と頭を下げるイダセン。

なおも騒がしくなっていく会場。

それを合図のうように幕が下がっていく。

すぐさま花梨の元に駆けつける女子生徒達。

発作のように泣き続け、声をあげ、一向に落ち着く気配がない花梨。

完全に力が抜けていて一人で立つことも出来ずにいる。

イダセン 「よしっ、池田。 とりあえず舞台からはけるぞ。 おーい男子、ちょっと手伝え!」

米川が走りよってくる。

イダセン、米川、花梨の両腕を自分の肩に回し、何とか起き上がらせる。

イダセン 米川 「せーのっ!」

花梨をほとんど引きずっているような状態で舞台の袖へ移動する。

抜け殻のような表情の陸。

両膝をついて舞台の中央で正座のような体勢になっている。

舞台の袖からまるで人間を見ているようではない冷ややかな目で陸を見る生徒達。

陸に沢山の視線が突き刺さる。
      
誰も声をかけようともしない。

近づこうともしない。

花梨を舞台裏に連れて行き、立ち上がろうとしない陸を見るに見兼ねて近づいていくイダセン。

目の前で立ち止まり陸に声をかける。

イダセン 「立て」

  陸  「……」

同じ体勢のまま、全く反応がない陸。

イダセン 「立てっ!」

大きな声を上げるイダセン。

むりやり陸の腕を持って立ち上がらせる。

力が入っていなく、魂が抜けたような人間味を感じられない陸の表情。

そんな陸を見て頬に平手打ちをするイダセン。

ぱーんと大きな音が鳴る。

舞台の袖で驚きながらその様子を見ている生徒達。

何も反応がない陸。

イダセンが手を離すとまたしても力が抜けたように、へなへなとその場で正座のよう体勢になる陸。

あきれた様子のイダセン。

イダセン 「もういい……勝手にしろ……お前はクラスのみんなの気持ちを踏みにじったんだ……それだけは忘れるなっ!」

陸を残して舞台の袖へと帰っていくイダセン。

ただ一人舞台に取り残された陸。

急に舞台のライトも消え陸の姿もはっきり認識できなくなる。

わずかに認識できる陸の表情。

魂が抜かれたように、何かの抜け殻のように、その表情は決して人間味を帯びる事はない。
      
      ――つづく――

――第三話 「黒魔術って信じる?」 完――