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20日間のシンデレラ 第3話 黒魔術って信じる?

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  陸  「おぃおぃ、主役がそんなんで大丈夫か? こんな緊張しまくってるシンデレラ見たことないぞ」

ふて腐れたように、頬を膨らませている花梨。

花 梨  「しょうがないでしょ! 主役なんて緊張するに決まってるじゃない。 てかさっきのあんたの台詞もちょっと危うかったわよ?」

反撃をするように、にたっと笑って下から覗き込んでくる花梨。

  陸  「シッ……シンデレラでひゅ……よりはましだ馬ー鹿」

花 梨  「誰が馬鹿よ! 最近ちょーっと勉強ができるからっていい気になってんじゃないわよ、このがり勉!」

  陸  「がり勉じゃねぇ」

隣同士の席で演劇の練習をするのか、喧嘩をするのかわからない状況になっている二人。

その様子を周りの生徒がちらちらと見ている。

清水も前の席で気になっている様子。

イダセン 「よーし、じゃあ今日の練習は終わりだ。 とりあえずみんな席に着け」

時計を確認して生徒に声をかけるイダセン。

自分の席を離れて練習をしていた生徒達も、それぞれ戻っていく。

静かになる教室。

ちらっと花梨の方を見て話始めるイダセン。

イダセン 「みんなに大事な話があるからよく聞いてくれ。 ……実は今月の23日を最後に池田は転校する」

静かな教室がより一層、静けさを増す。

みんな驚いて唖然としている。

イダセン 「お家の都合で県外に引っ越すそうだ。 もちろん池田はそっちの小学校で学校生活を過ごす事になる。 だからみんなと過ごす大きな行事といったらもう校内学芸会しかないんだ。 みんなその意味をちゃんと理解して欲しい。 精一杯練習していい思い出を残そう。 池田の為にもな。 池田はちゃんと主役として頑張らないと後悔するぞ。 先生に最高のシンデレラを見せてくれ……な?」

にこっと笑顔を見せるイダセン。

花 梨 「はいっ……」

今にも泣きそうになっている花梨。

その様子を見ている陸。

  陸  「(今、昔の自分の記憶が鮮明に蘇った気がした。 前から花梨に転校するって事は聞いていたけど、でも頭のどこかでそんな訳ないって現実を受け止めようとしない自分がいたんだ。 けどイダセンの口から告げられて初めて実感した。 花梨は転校するんだって……もうどうにもならないんだって……今、思えば県外に引っ越しても会おうと思えばいくらでも会える。 けどあの頃は県外って言葉があまりにも遠く、もう一生会
えないようにさえ思っていたんだ」

チャイムが鳴って教室を後にするイダセン。

扉が閉まると同時に沢山の生徒が花梨を囲む。

真っ先にやってくる夏美。

夏 美  「花梨ほんとなの? 嫌だよ、行かないでよ……」

花 梨  「ごめん……ごめんね……」

泣いている二人。

他の女子も泣いている。

少し離れてその様子を見ている男子生徒。

気を使って自分の席から離れる陸。       

  陸  「(覚悟はしていた。 ちゃんとその日が来ても笑顔で花梨をおくりだしてやろうって。けど出来なかった……強がって寂しくないって言っても、余裕があるように見せようとしても全然涙を抑え切れなくて、結局思っている事と真逆の事を言ってしまったんだ。 お前なんかとっとと転校しやがれーって……花梨を傷つけてしまった事。 言えなかった花梨への思い。 現在でも俺を苦しめ続けるそれらの後悔というもの。 もう二度と同じ過ちを繰り返さない……」

ふと立ち止まり驚く陸。

周りを気にせず泣いている米川。

休み時間にも関わらず教室全体がしんみりとしている。

  陸  「(花梨はみんなから愛されていたんだ……)」


〇実家 陸の部屋(7月19日 現在)


窓の外はすっかり暗くなっている。

鈴虫の泣き声が心地よく部屋に入ってくる。

うーんっと両手を挙げ伸びをする陸。

勉強机に置いてあるライトがノートを明々と照らしている。

再びノートに視線を戻す陸。

ノートに書かれている7月12日の日記、

  陸(語り)「7月12日。 米川が花梨に告白した。 驚いた、あいつが花梨を好きだったなんて……結果は駄目だったみたいだ。 それを聞いてどこかよかったと思っている自分が何とも腹立たしい。 それと同時に自分の気持ちを素直に伝えられる米川が羨ましく思えた。 俺は焦っている……時間がないというのに……後悔した事をやり直す為にこの世界に来たんじゃないのか? どんな形でもいい。 花梨に……」

急にページをめくって7月12日の日記をとばす陸。

  陸  「……」

ふーっとため息をつく。

再びノートに視線を戻す。

ノートに書かれている7月18日の日記、

  陸(語り)「7月18日。 今日で日記を最後にしようと思う。 もう学芸会に向けて出来る限りの練習はしてきた。 花梨の演技もすっかり板についてきて、俺もやっと安心して自分の演技に集中できるようになった。 俺は現実に戻った時、今の思い出が上書きされて本当の思い出を失ってしまう。 けど明日はあの頃に負けないぐらい最高の思い出を作れるって信じてる。 最後くらいだらだらと書かないで気持ちよく終わろう。 後は任せた。 頑張れ、俺!」 

ノートをパタンと閉じる陸。

机から立ち上がり窓際に移動する。

窓から外の景色を眺める陸。

外からゆっくりと吹く心地いい風が陸の前髪を揺らす。

見慣れた町並み。

けど懐かしい町並み。

ほとんどの家の電気が消えていて、一部の家しか点いていない。

大きく息を吸い込む陸。

瞳をきらきらさせて、期待に満ちた表情。

  陸  「よしっ!」

自分で自分に気合を入れる陸。

天上からぶら下がる紐を二回引いて、蛍光灯の電気を豆電球にする。

一瞬にして暗くなる陸の部屋。

倒れるようにベッドに仰向けになる陸。

ゆっくりと瞳を閉じる。


〇体育館前 廊下(翌日)


教 師  「押さないでーゆっくり入って下さーい」

保護者達を体育館の中へと誘導していく教師。

入り口にある真っ黒な黒いカーテンをくぐって中に入っていく保護者達。

教 師 「ちょっと、おじいさん! 中は飲食厳禁ですよ」

川島のじいさん 「細かいこと言うんでない若いの。 後先、短い年寄りの楽しみを奪わんでくれんか?」

教師の見つめる先には、大きく腰が曲がり、片方の手には何とか自分の体を支えている杖、もう片方は道中のコンビニで買ってきた「男山」と書かれたパックの酒を持っている。

酒にはすでにストローがささっており、川島のじいさんの口からは話すたびに真新しい酒の匂いがしている。

教 師  「しかし……」

  声  「あーっ、川島のおじいちゃん!」

川島のじいさん 「おーっ、清水君とこの……」

渡り廊下から川島のじいさんを見つけ走りよってくる清水の母。

清水の母 「いつも馬鹿息子が遊んでもらってるみたいで……ほんとすいません」

深々とお辞儀をする清水の母。