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20日間のシンデレラ 第3話 黒魔術って信じる?

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馴れたように机の間をくぐり抜けていく陸。

あまり人通りがない為、陸の足音しか聞こえていない。

突然、頭上からちりんと陸の耳に鈴の音が聞こえる。

音の鳴る方を見ると、首に鈴を付けた黒猫が陸を見ている。

  陸  「(あの猫、どこかで……)」

黒猫のすぐ隣には、沢山の椅子が積み上げられていて妙な雰囲気をかもし出している。

普段、閉まっているはずの屋上へのドアが開いたままになっている。

鈴の音を残し、素早く屋上へと出て行く黒猫。

追いかけるように階段を駆け上る陸。

その勢いのまま一気に屋上へでる。


〇屋上


陸の視界を覆う真っ白な光。

暗い校舎から急に外に出た為、思わず目を細める。

視界がぼやけている陸。

微かに認識できる黒猫。

その後を追う陸。

急に立ち止まる黒猫。

  陸  「(ん……人?)」

うっすらと人らしきシルエットが見える。

同じように立ち止まる陸。

急に聞こえてくる、陸に発せられた声。

  声  「ねぇ」

  陸  「えっ?」

  声  「黒魔術って信じる?」

次第に目が慣れて、視界がはっきりとしてくる。

確実に校則違反の黒いドレス。

風に揺れる長めの髪。

黒猫がぴょんと肩の上に乗る。

分厚い本を両手で抱えて真っ直ぐにこっちを見ている。

風が陸の体をすり抜けていく。

時間が止まったようにしばらく動かない陸。

もう一度、相手の方をちゃんと見て、

  陸  「恵子……」

二人しかいない屋上。

周りには青空と遠くに見える山、そして周辺の町並みがパノラマのように見える。

ふーっと一息ついてから答える陸。

  陸  「あぁ……俺は信じてるかもしれないな」

少し間を置いて、

恵 子  「そう……」

少しうれしそうな表情の恵子。

恵 子  「あんたクラスのみんなに気味悪がられてるわよ。 あいつは陸じゃない、別人だって」

  陸  「……お前もそう思うか?」

恵 子  「さぁね……ただ周りから気味悪がられてるって所は私も同じかしら……」

優しい目で陸を見る恵子。

手すりに手をついて、遠くの景色を眺めている。

何かを思い出すかのような表情で、

恵 子  「私には小学二年生の弟がいるの。 名前を翔太っていってね、小さい頃からずっと一緒だった。 明るくて素直で羨ましいぐらい友達も多かったわ。 けどある日を境に全てが変わった……」

急に自分のことを話し始める恵子に驚いている陸。

しばらく沈黙が流れる。

黙って恵子の話に耳を傾ける陸。

恵 子  「父は他に女を作って家を出て行ってしまった。 残された母は私達を必死で育てようとしてくれていたけど、元々体が弱く、持病が悪化してとうとう死んでしまったの」

言葉を失う陸。
  
表情が強張る。

恵 子  「私達は母の事が大好きだった。 週末になると私の好きなコロッケをいつも作ってくれて、出来上がるのを今か今かと待っていたの。 結局残ったのは莫大な遺産と私達姉弟には広くて大きすぎる屋敷。 それがすごく孤独で辛かった……家族みんなで夕食を食べていた頃が本当に温かくて懐かしくて……それでも私は姉として何とか翔太を守らなければならないと思ったわ。 けどまだ低学年のあの子にはショックが大きすぎたみたい。 それ以来、翔太は笑わなくなってしまった……感情というものを完全に失くしてしまったの……」

再び恵子の顔を見る陸。

次第に笑顔がなくなる恵子。

  陸  「……弟はこの学校にいるのか?」

恵 子  「ええ……二年三組よ。 けど何にも関心を示さなくなった翔太は教師からは問題児扱いされ、友達も次第に離れていった。 だからあの子の友達って言ったら、いつの間にか屋敷に住み着くようになったこの猫ぐらい」

恵子の肩の上でにゃーっと鳴く黒猫。

恵 子  「授業が終わるまでここで翔太を待ってくれているの」

  陸  「(生徒達の間で噂になっていた、化け猫の幽霊の正体ってこいつの事だったのか……)」

一人、納得している陸。

恵子、再び陸の方を向いて、

恵 子  「あんた黒魔術を信じるって言ったわよね? どうしてそう思うの? 根拠は?」

一瞬、その言葉にひるむ陸。

困った顔をしながら、

  陸  「根拠か……わからん。 けどないとは思わない」

何かを決意したかのような表情の恵子。

恵 子  「私はあの子を助けてあげたい。 どんな方法だっていい。 奇跡だって魔術だって願いが叶うんなら何だってかまわない。何度、失敗しても必ず……」

急に思い出したかのように我に返る恵子。

恵 子  「ごめんなさい……何だか一方的に話しすぎたみたいね」

  陸  「全然いいよ。 上手くいくといいな。 てかお前こんなに人と話せるんなら友達できるんじゃないのか?」

恵 子  「あんたに言われると何かむかつくわね」 

笑顔になる二人。

恵 子  「それより学芸会の練習しなくていいの? あんた王子役でしょ?」

  陸  「いっけね! そうだった……台詞思い出さねぇと……」

陸の横を通って戻っていく恵子。

  陸  「お前は何の役なんだよ? 木その1か?」

にやにや笑って恵子を茶化す陸。

陸の方を振り返りくすっと笑って、

恵 子  「魔法使いよ」


〇陸の部屋(7月19日 現在)


真剣に日記を読み続けている陸。

下から聞こえる母の声。

  母  「陸ーー川島のおじいちゃんからもらったスイカ食べるかい?」

大きな声で返事をする陸。

  陸  「今はいい!」

窓の外は次第に暗くなり始めている。

再びノートに視線を戻す陸。      

ノートに書かれている7月7日の日記、

  陸(語り)「7月7日。 周りは完全に学芸会への練習で必死になっていた。 俺も王子という大役を与えられていながら、十年前の台詞をきちんと覚えているはずもなく暗記をする為、常に台本とにらめっこをしていた。 ただ一番問題なのは相手役がシンデレラであり花梨だという事で……こんな自分でも一生忘れたくないと思えた程の学芸会を今の心境で昔と同じように再現できるのか? 人に喜んでもらえるものを作り上げる事ができるのか? 本当にそれが心配だった。 清水との喧嘩の件で、最近もどこか花梨とは気まずい雰囲気が流れていた。 ……と思っていた。 初めて花梨とする演劇の練習では(本当の思い出では何回もしているのだが) いたって自然で、俺の事を疑っているような様子もあまり見れず、それどころか会話のやりとりさえ昔のような感覚に似ていてどこか懐かしかった。 この世界に来て初めて花梨とまともに会話をしたような気さえする。 けど俺はまだ知らなかった、いや現実を受け止めたくなくて記憶の奥にしまっていた。 

この日は花梨が転校するという事を知らされる日で、刻一刻と俺にとってあの忘れられない日が迫ってきているのだという事を……」


〇教室(回想 7月7日)


花 梨  「シッ……シンデレラでひゅ……」 

緊張して声が裏返っている花梨。

花梨の演技に戸惑っている陸。