日常の中の極限
立ち往生している間にも、お産、いや汚散の時間は刻一刻と迫る。腹の悲鳴は轟鳴に移行する。
俺に残された選択肢は二つだ。
一つは、汚産を断腸の思いで耐えながらオアシスの蜃気楼を纏ったこの蟻地獄から抜け出して真のオアシスへ急行し、そこで事を済ますという道。
もう一つは、紙に構わず、いっそこの場で生む子を排して、尚早苦痛から開放されるという道。
齢十六で、人生を右にのばすか左に捨てるかの極限の選択をする羽目になろうとはな……俺は生涯を顧みる。
果たして俺は、明日の自分の為に今日を必死にもがく生き方をして来たか。
それとも、明日の自分の苦労などどこ吹く風で、今日をその場凌ぎに楽する生き方をして来たか。
極地の諦観のお陰でこの年でそれを悟ることのできた俺は、ある意味幸せ者なのかもしれない。