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舞うが如く 最終章

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 その夜のことです。
夕食を済ませた琴が改たまった様子で、タケと咲の前で姿勢を正しました。
懐からは、3つに分けた封筒を取り出します。
それをひとつづつ、タケと咲に手渡しました。


 「まずは咲に。
 嫁ぐおなごのたしなみとして、これなる餞別を、持参いたすように。
 また、タケには・・・
 万一のことも考えて、もしもの時もありますので、、
 これを、常に身につけておくように。」


 二人とも、事情が呑みこめずに、ただ面食らうばかりです。
琴が、詩織を膝に呼び、そっと抱え込んでからさらに言葉を続けます。



 「残ったもうひとつは、
 私と、詩織の分といたしましょう
 さて、それでは説明をいたしましょう。。
 それなるものは・・・
 私が生涯でただ一度だけ、心に決めた殿方、
 沖田総司の置き土産です。
 総司が病死を遂げたのちに、義兄にあたる沖田林太郎氏より、
 届けられたるものに、ありまする。」


 「いらしたのですね!
 琴さまにも、心に決めた御方が。」



 「これっ、
 わたしとて、おなごのひとりです。
 思えば・・・
 丁度、タケ殿と同じくらいの年頃のことでした。
 総司は、26歳の若さで亡くなりました。
 新撰組とともに、幕末を駆け抜けて、時代の夜明けが来る前に、
 胸の病のために、この世を去ってしまわれました。
 生命に値段はつけられません、
 しかし総司は生命を懸けて、私のために
 これほどまでの大金を、必死で残してくれました。
 身に余るたいそうな置き土産ゆえ、
 こうして、3人でわけることにいたしました。」



 「・・・それほどまでに、貴重なものを。
 いいえ、あだやおろそかで、
 いただくわけにはまいりませぬ。」

 
 「タケ。良くお聞き。
 お前は、まだ若い。
 これらから、いかようにでも生きることができる。
 ただ、琴が心配することは只のひとつ、勇蔵との行く末にありまする。
 考えてもご覧、
 勇蔵の様な蒸気機関の職人は、
 これからの日本では、たくさん必要とされる人間です。
 生糸産業が全国に普及していくためにも、欠かせない職人の一人です。
 今はこの水沼で仕事をしていますが、いつ何どき、また
 勇蔵を必要とする工場が現れるかもしれません。
 その時に至ったら、タケはどうするつもりですか。
 又、同じ過ちを繰り返しますか・・・・
 去っていく勇蔵を心穏やかに、見送る事ができますか、
 あなたには」


 
 「・・・お気持ちは、十二分にもありがたいのですが、
 とうてい無理な話にございます。
 一人身ならいざしらず、あたくしには詩織がおりまする。」


 「ゆえに・・・
 こうして詩織の分も分けました。」


 「詩織は置いて、男と行けと・・・」


 「さすがに、お前様は察しがよろしい。
 最前より、そう申しておるではないか。」



 「ですが、それでは余りにも、」

 「もう、戻ってくるななどと言ってはおらぬ。
 私と詩織は、いつまでも此処に住んで待っておる。
 駄目であればその時は、また戻ってくれば良いだけの話ではないか、
 お前さまこそ、新しい時代を、いつでも自由奔放に駆け抜ける女のはずでしょう。
 信じる道を行くがよい。
 男と女が力を合わせて、信じてもらうことの重さや、
 その大切さを身を持って、しっかりと学ぶ必要もあるでしょう。
 タケにはまだ、それだけに時間が充分に残っています。
 あとを案ずることなく、自らの道を信じて歩くがよい。、
 それもまた、そなたの定めで有ろう。」



 「琴さま 」


 「タケ、泣くではない。
 咲の目出たい婚礼の前で有る。
 泣いたりしたら、嫁ぐ咲が、困るだけであろう。
 女とは、まことに因果な生き物です。
 困ったら二人とも、ここを我が家と思っていつでも、また戻ってくるがよい。
 私は詩織と共に、いつまでも此処で待っていよう、
 私に出来ると事といえば、もうここまでである。
 この先へは・・・
 ともに、自分を信じて、それぞれの道を
 お進みくだされ。」


 
作品名:舞うが如く 最終章 作家名:落合順平