舞うが如く 最終章
舞うが如く 最終章
(8)嫁ぐ春に
咲の結婚話は、思いのほかトントン拍子にすすみました。
「色恋ごとに関してならば、あなたはやはり、
たぐいまれなる天才ですね。」と、
琴が、思い出してはタケをしきりと褒めちぎります。
「よくぞ、そんな風に、簡単におっしゃいますわねぇ。
琴さまのほうが、先にお気づきになられたくせに。
馬の背に揺られていた咲の様子が、
まるでお嫁入りの姿、そのものだったなどと、おっしゃりましたでしょうに・・・。
ほんに、なぜか他人さまのことと相なりますと、
琴さまは、特別に、
勘が鋭いように、ありまする。」
「おや?
それと言うことは、
お前様と、勇蔵さんとのことと言う意味に、ありましょうか?」
知りませぬ・・・
と、詩織の手を引きながら、数歩遅れて歩いていたタケが、
頬を染めたまま、思い切り顔をそむけてしまいました。
「咲が、この春に嫁いだ後には、
そなたのこともキリをつけておきましょうね。
先にあたっての身の振り方なども、そろそろ、・・・塩梅を、いたしましょうか。」
「私のことに、ありますか?。」
怪訝そうに、タケが顔を上げます。
その目に向かってしっかりと見つめ返した 琴が、タケの手から詩織を抱き取ると、
茜色に輝き始めた夕空に向かって、高く抱き上げました。
「重くなったわねぇ~、詩織や。
覚えておいでかい、
初めてお前様と出合ったのは、このあたりの河原です。
初めて見たお前のお母様はとても美しく、
お前を連れて、とても健気(けなげ)でもありました。
しかしあまりにも、
こんな田舎には不釣り合いな旅姿にありましたので、思わず、お声をかけてしまいました。
あれが、運命の出会いというものにありました。
お前様は、スヤスヤと寝ておりましたので、なにも覚えてはいないでしょうが、
一人身のままに、子もなく老いてしまった一人の女と、
若くして子供を抱えて途方に暮れた女が、
こんな処で、出会をいたしました。
出会いと言うものは、誠に不思議な物ですねぇ、
ねぇ、詩織や。」