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空を泳ぐひと

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お母さんと塾に入る手続きをして帰り道、ぼくは変なおじさんを見た。小さな公園の入り口の所で、口をあーんと開いて空を見上げている。靴は脱いで側にあった。ぼくはなにを見ているのだろうと空を見上げたが、曇り空で特に変わったものは見えなかった。

お母さんがぼくの手を引っ張るので、振り返りおじさんを見たが、おじさんの両手はお尻の辺でひらひらと金魚のひれのように動いていた。お母さんは更に強く手を引っ張るのでお母さんの顔を見たら、怖い顔で「ちゃんと塾で勉強しないとあんな風になっちゃうわよ、わかった」と言いながらぼくの手を離した。ぼくはどうしてあのおじさんみたいになったらいけないのか聞こうとしたが、お母さんが怒りだしそうなので黙って後を付いて歩いた。

夕食の時にお母さんが、ぼくの塾が決まって明日から行くことをお父さんに話したが、お父さんは、テレビの野球放送に夢中になっていて、「うん」と言ったきりだった。 お母さんはそれでも構わず「いい中学に入るためには、四年生の今からやらなくちゃだめだし、これでも遅すぎたかも知れないのよ」と言ってお父さんを見たが、相変わらず野球放送に夢中なので、ぼくを見て「がんばんなきゃダメよ」と言って、急に思いついたように、ご飯を食べ始めた。

作品名:空を泳ぐひと 作家名:伊達梁川