近未来のある日
「あなた」
私の家のロボットが、彼女自身の顔、妻の声、妻の表情で言った。
「あぁ……」
言葉を発することもできず、私はまた泣いていた。彼女は私の涙をぬぐうかのように、私の頬に手をよせた。その細い指は少しずつ下のほうへと這っていき、私の首で止まる。
「愛しているよ」
眠ったままの妻に何度もつげた言葉を、彼女に伝える。
「私も、愛しているわ」
彼女は優しく微笑み、私の首を……絞めた。
「……ぁ!?」
私は声を発することが出来なかった。目だけを動かし確認するが、彼女は愛おしそうに私を見つめていた。
「愛しているわ。あなた」
彼女の力は、その細い腕に似合わず、強くなっていく。ふと、さきほどのやりとりを思い出す。
感情の乱れ。そう、彼女は本当に私を愛しているだけなのだろう。皮肉なものだ。殺意を向けられることで愛情を確認することになるなんて。
彼女の腕をかきむしるが、それは私の手についた血をつけるだけで、腕をはずすことは出来なかった。もう、意識がもうろうとしてきていた……。
私は最期に思った。
妻がいる病室の外で、妻の感情を持ち、妻の声を発する機械に絞殺され、妻の愛を知る。
……こんな時代が来るなんて……誰が予想しただろう……。