恋色季節
ガタンゴトン…
ガタンゴトン…
あたしはつり革に捕まり流れ行く景色をみている。
どうやら互角に終わったなんとも迷惑な死闘。
心優は疲れはて、隣に座っている魔王の肩を借りて寝ている。
ふとそちらに目をやると、2人の姿が絵になり、可愛らしくて、微笑んでいた。
「ねぇ紗希ちゃん」
「はい?」
「どこから魔王っていう単語を学んできたのかな?」
「…」
理央から度々聞いてはいたが…
このお方の読心術は本物だ…っ!!
「クスッ…ちょっとその話詳しく訊きたいな」
「…ナンノコトデスカ?」
逃げたいよー…っ!!
この時初めて対等に戦っていた心優の偉大さを知った。
「…紗希ちゃんは」
急に声が真剣なモノへと変わった。
「はい?」
「紗希ちゃんは、中村…のことはもうどうでもよくなっちゃった?」
「っ!!そんなことあるわけないじゃないですかっ!!」
どうでもいい?
そんなことならこんなにも悩んだりなんかしない。
「そう、ならいいんだ」
そういって神崎先輩はにこっと微笑んだ。
「…なんでそんなこと訊くんですか?」
あたしは怪訝そうに問う。
「…クスッ、中村そうとうキてるみたいだったから」
「え…?」
「いや、僕たちは引退してるからよく分かんないんだけど…」
「…?」
「日向たちがいうには紗希ちゃんの連絡が途絶えてから、中村がオカシイんだって」
「ぇ…?」
理央が不調…?
「中村はね…何とかいっても君が大好きなんだ」
「…っ」
胸が苦しくなった。
「君が思っている以上に中村は君を想ってる」
そういう神崎先輩の蒼い瞳は凄く澄んでいて
言葉がとてつもなく重く感じられた。
「あたし…っどし…たら…」
あたしが理央を追い詰めた―…?
「中村は2月にはここを発つんだ。…君はこのままでいいのかい?」
「…っよくない…です」
拳を握りしめた。
「それなら、最後まで中村と一緒にいてあげなきゃいけないんじゃない?」
「……はい」
避けていては、進めはしない―…。
「あ、もうつくね」
「はい」
次第にゆっくり流れる景色を、私は歪む視界で見ていた。
混雑する駅をでる。