恋色季節
「…っはぁ…っな?!紗希?!」
「気づいてなかったのかよー。お嬢ちゃんは理央の彼女かぁ?」
ニヤッと笑うオジサン。
何か理央に似ててカチンときた。
血縁関係者か?
「え、はい」
「Σはっ?!マジ?!
おいコラ理央!!お父様はそんなこと微塵たりとも聞いてねェぞ!!」
「だって親父茶化すじゃん」
あ、親父ってことは理央のお父さんだったのか…
…‥‥。
突然変異?
どうやったらこの人からこげな子が生まれるんじゃい?
やべー…
生命の神秘恐るべし!
「来るなら連絡くらい入れてよね」
ちょうど練習もラストスパートだったみたいで、今は休憩中。
オジサンはオトナの絵本を見ながら、鐘を鳴らしている。
本当に親子か?
「いーじゃん!人生何が起こるか分かんないから楽しいんだい」
「…はぁ…」
コイツ折角彼女が来てやったのにため息つくのかよ。
連絡くらい別にイイじゃんかあ…
「…おチビ」
「犯すよ?」
「全身全霊で謝罪致します」
やっぱりあの人とは親子だと痛感した紗希ちゃん。
「楽しいお父さんですな」
「…」
急に黙る理央。
不安になり、横にいる理央を見る。
捕らえた視界に映った君は
とても、とても悲痛な顔をしていた。
「ど、どし…っ?!」
言い終える前に理央に抱き締められ遮られた。
「…そんな顔しないでよ。
我慢しないでってゆったじゃん。俺ってそんなに信用できない?」
そんな顔?
あたし、どんな顔してるの?
分からない…
あたし、感情だけじゃなく、表情筋まで麻痺したのかな―…。
「理…央」
君の抱き締めてくれるその腕の確かな温もりに、あたしが此処に存在しているということを確認できる。
不覚にも、涙が出そうになった―…。
「俺がついてるよ…紗希」
喉がつまったようでありがとう
そう言うこともできず、ただ感情が、頬を伝って流れた―…。
「あ、で何ゆえ連絡を入れなきゃいかんとよ」
「…」
黙る理央。
「何々?疚しいことがあるのかコラ」
「…違うし」
鋭く睨み付け、たじろがせた紗希様。
無言で返事を催促すると、理央は赤面しつつ口を開いた。
「…俺さ、よく此処で親父とテニスしてるんだよね」
「っぽいね」
「で、アンタが急に来ると困るワケ」
「あのさ、あまりにも説明省かれると訳不明になるんですが」
理央は再びため息をつき、被っていた帽子をまた深く被り直した。
「見られたくないじゃん。
好きな人の目の前で負ける姿なんてさ。」
……。
「バカ?」
「…るさいよ」
俯く理央の顔を下から除きながら微笑んだ。
「理央は何してても格好イイよ?」
「…」
みるみる沸騰していく理央の顔。
「アンタさ…それは反則だよね」
「え?」
その刹那、理央の今まで被っていた帽子を勢いよく被された。
「あんまりそうゆうこと言わないでよ…。」
「いいじゃん、たまには」
「…怒るよ?」
視界は不良。
帽子で理央に表情がみえないだろうから、思いっきり笑ってやった。
「ねぇ紗希」
「ん?」
突然真剣な声色が響く。
「11月にやっと部活が落ち着くんだよね。
だからさ、どっかデートしに行かない?」
「あ、ごめん理央。ちょと耳屋さんに行ってくるね?」
「…は?」
だって理央がデートって…デートって言ったよ理央が?!
何々?!そげなこと全くもって予想してなかったよ!!
下手したら銀河系の星が直列する確率の方が高くなっちゃうぜ?!
「てか耳屋さんって…」
あたしの百面相と発言に吃驚している理央。
「いや、耳屋さんで耳取り替えてもらわなきゃ…」
「はぁ…。
で、結局来てくれんの?」
「もち子のロン毛ッ!!」
「さっきから言いたかったんだけど…アンタさ、痛い子だよね」
「Σ!!」
固まるあたしを見て、笑う理央。
訳もなく理央に肩を引き寄せられ、胸で受け止められた。
理央の香りが、心地いい―…
秋風に撫でられ、だんだんと意識が遠退いていく。
「紗希…離さないから」
「上等。」
そういってあたしは意識を手放した。