恋色季節
「一時的な記憶障害だと思いますが、念のため精密検査をしますので…」
「しばらく入院…ですか」
「はい」
あたしは少女の発した単語にびっくりした。
「えっ?!あたし入院するんですか?!元気なのに…」
「元気でも、もしということがあってはいけないからね。」
「ぅ〜…」
でもあたしがそういうと
2人はとてもかなしそうな顔をするから
素直にうなずくことにした。
††††††
「ほへ〜…あたし、紗希って名前なんだっ」
静寂した病室に明るい声が響く。
「そうだっちゃ♪ちなみにあたしは心優だよおっ」
その声よりも数段高く明るい声が響く。
「心優ねっ?了解です!……君は…」
「え…?俺は…」
ズキ―…
「あっ…待って?」
頭がガンガンする。
でも
この痛みの先に
あたしが求めている言葉があるような気がして…
「君は……
……理央?」
激しい頭痛の中で思い起こされたひとつの名前―。
「…っ!!」
ぎゅ…っ
「どうしたの?…あ、あたし名前違うの言っ…」
「あってる」
この人は
あったかい―…
「紗希ちゃーんのうーわきものーっ」
「ぇっ?!」
心優の声で我にかえる。
「ちょ…っ!!理央くん?!ごめんっ離れてっ」
「ヤダね。あと"くん"付け禁止。」
「いや、中村くーん?本気でヤメレ?心優ちゃん怒っちゃうよ?」
「なんで…?」
怪訝そうに眉をよせる理央。
「紗希ちょんは心優のやもんっ!!
中子にはやらんっ!!」
「俺は名前思い出してくれたんだよね」
「〜っ!!むきゃーッ!!」
「心優ちゃん?此処は?」
「…病院デース」
この2人といると
何か分からないモヤモヤ感が
スーッとひいていくような気がして…。
「はなれないで…」
突拍子もなく出た言葉。
2人はとてもびっくりしている。
この2人は敵じゃない―。
本能的にそう思ったんだ…。
敵とか味方とか
格付けするほうがおかしいと思うけど
あたし自身が人と馴れ合うことを怖がっている―。
「何いってんだようっ!!
アホかお前さんはアホか?!」
「離れるわけないでしょ
バカ紗希」
笑顔になった。