恋色季節
"恋"という文字を見て、目線が自然と彼に走る。
中村理央―…。待て。
何でアイツ?!
だって私はアイツに毎日のようにパシられて?
弄られて?
私はマゾじゃないっ!!
キーンコーンカーンコーン…
「起立ー!!」
脳内葛藤を続けていた紗希には時間のことなんて全く頭に入ってなかった。
礼を終えるとみなバタバタと帰りの支度を始める。
それに習ってバックを取りに行こうとすると…
「ねぇ、トイレの人。」
「っ!!」
そりゃ吃驚しますよ。
さっきまで必死に考えてた人が急に背後にいらっしゃるんですから。
「ってか!!トイレの人ってやめてよ…
それって結構地味に凄く恥ずかしいんだよ?」
「んー…じゃあ紗希」
「ふぉっ?!」
いきなりのファーストネームに付け加え呼び捨て。
恋疑惑のたっている人に呼ばれたら
恥ずかしいやら、焦りやらで見事なほど赤面している紗希。
「ちょ…っいきなりそれ?!」
「紗希」
「はい…。」
有無を言わさない絶対的な肯定。
やっぱり君には敵わないや―…。
「だからアンタも中村じゃなくて理央ね」
ニヤリと笑う中村。
「どうせ拒否権なんてないんでしょ?」
「とーぜん」
っ…やっぱムカつくわっ!!
「で!!何ですか理央?!」
横道に逸れたので話を逸らすついでに本題へと戻す。
「今度試合あるんだよね」
「ふーん」
…まさかね―。
「もちろん来てくれるよね?応援」
…。
「…だーから、どうせ私に拒否権はないんでしょーが!!」
「当たり前じゃん」
じゃあ、日時は今度教えるからね。
そう言い残し、中む…理央は帰りの支度をしに、自分の席に戻っていった。
「?」
理央を見ていた…もとい睨み付けていた沙希。
机の上に置いてある折り畳んでいる紙切れに気付かなかった。
不思議に思い少々抵抗を感じつつ開いてみる。
「…。」
【試合の日時、アンタと話すの面倒だからメールアドレス登録しといてね。】
文章のすぐ下に理央のメールアドレスらしいものが書いてあった。
ほ―…。
面倒とな?
なら誘わないで下さいますか?理央君。
しかし
登録しなければまた何か嫌味を言われることなんて目に見えている。
しかたなしに、その紙の下部だけをちぎる。
そして、上部をくしゃくしゃにして理央に投げつけた。