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エディブル ユー

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「はい、どうぞ」
私は、作ったパスタをテーブルの上に置く。男は目を輝かせながら、やっぱり料理が上手だなと褒めた。私の場合、料理が得意なわけではなくて、自分の食べたいものがまわりのお店にないから仕方なく料理をするようになっただけで、自分の食べたいもの以外は作ることができない。男が私の料理の味に慣れてしまったためであろう。食の慣れほど恐ろしいものは、男女間の関係において、他にはない。

男は、男のパスタではなく、私の前に置かれたものを見て言った。
「何入れたの?」
「さくらの花びら。香りが甘いの」
そう言って口にパスタを運ぶ。花びらは少し苦くて、けれども甘かった。どこからか零れ落ちたそれのように。私は度々、料理に食用花をいれる。好みもあるので自分の分だけにしか入れないが。
「メドースイートとかも美味しいよ」
「またハーブティだろ」
「普通は。私はてんぷらで食べちゃってるけど」
「うまいの、それ」
「おいしいよ、どっちも」
「ふーん」
「でもカレンジュラのが、すき」
「キンセンカねぇ」
「薔薇はやっぱり味が濃くて、だめ」
「ラナンキュラスは?」
「あれはもっとだめ。美味しそうなのに」
「けど、好きなんだろ?」



「ええ」







「すきよ」




そう すき だったのだ。


私たちは幼なじみだった。
私が3歳の頃に引っ越してきた時、たまたま新しい家の隣に住んでいたのがきっかけで私と男は何をするのでもずっと一緒にしていた。ただそれはなんとなくでしかなかったけれど、とにかく私と男は一緒にいた。
私たちが離れたのは高校のときだった。そもそも希望していた受験校が異なっていたので当たり前と言ったら当たり前だった。しかし、私も男もそれが特別悲しいわけでも嬉しいわけでもなく、ただ途中まで道が同じだったぐらいにしか思っていなかった。私たちはそれ以上の感情を持ち合わせていなかったのだ。
そうして、高校に行って、大学に行って、就職して、社会にようやく溶け込めた頃、誰が企画してくれたのかはわからなかったが中学校の同窓会で、私たちは久し振りに顔を合わした。久し振りだね、から始まり、色んな事をお互いに話した。自分が言いたい事を言っていただけだったようにも思えた。でも、やっぱりいいなと思った。何が、というのはよくわからなかったのだが、とりあえずよかった。面倒な説明無しに色んなことが言えたからかもしれない。
それはどっちが言い始めたかはわからなかったが、そこから私たちは恋人となった。
今思えば、あれは幼馴染で離れてしまったので、恋人という言葉の糸でもう一度繋ぎ止めておきたかっただけなのかもしれない。それほどまでに私たちは確実に大事な何かがズレていた。だから幼馴染だと言われればそうだし、恋人と言われてもそうだとしか言いようがなかった。
でも、お互いに深い意味はなかったのだと思う。もしかしたらそれは私だけなのかもしれないが。





何にせよ、

私たちは幼なじみという線を越えてしまった。

運命的に線引かれることが決められていた線を、一時の哀しさを捨てるために。


壊れたグラスは元には戻らない。
始めにすら、戻ることはできない。










だからこの恋は、
始めから何も始まってない終わりでしかない、


恋ですらない恋だったのだ。




作品名:エディブル ユー 作家名:くすぶ