夜の蜘蛛
夜になると具合はもっと悪くなっていた。
父さんはまだ帰ってきていない。今日は残業で遅くなりそうだとは聞いている。食事は用意してくれていたけれど、食欲がなくて食べられなかった。
時計の音だけが聞こえる部屋の中で、私は熱い息を吐きながら天井を見上げている。
真弓も同じように苦しんでいるのかも知れない。でも、治ってしまえば普通の生活に戻れる。私とは全然違う。
この家はひいおじいちゃんが建てたものだからかなり古い。トイレへと繋がっている廊下には電気の明かりがなくて、小さな庭が見える窓から月の光が差し込んでいた。
スリッパで床をミシミシと踏み鳴らしながら進んでいた私の足が止まる。
月光に照らされてゆらゆらと揺れているドクロ。それは一本の糸で吊り下がっている、あの蜘蛛だった。
気味悪かったけれど尿意が限界に近づいていた私は、蜘蛛を避けて通ろうと決めた。すると、それを察知したかのように蜘蛛は床に落ち、こちらへとカサカサと這いながら向かってくる。
こんな時、どうすればいい?
私は知っている。
おばあちゃんは教えてくれなかったけれど、自分で調べたんだ。
『夜蜘蛛は親でも殺せ』