夢ほころぶ頃
若菜は、炬燵の温もりから抜け出し、居間の戸を開ける。
頬に触れる冷気も、火照り過ぎた若菜には心地よく感じられた。
足場を気にしながら、つっかけるサンダル。
掌に数えられるほどひらり舞い降りるボタン雪を受け止めて、溶ける様子に心は和む。
肩に舞い降りる雪を連れて、軒からの雫の痕だけの純白の絨毯に足を踏み入れる。
サンダルの先から伝わる冷たさに踵を返す。
「ごめんね。ちょっと冷たかったね」
体を共有するかたわれにも、この美しさを伝えてあげたい。
僅かに掬った庭の雪を掌に握りしめ、せり出した腹の前で開いて見せた。
いつの日か、一緒に雪玉を作るのが愉しみねとばかりに。
眩い光が、庭の端に植えられた木のしっかり結んだ蕾を照らす。
やがて仄かな暖かさに変わる頃、硬く閉ざした薄茶の鎧を緩め、薄桃色が差すでしょう。
その頃、頑張ったご褒美に、桃色に移る小さな手を握りしめてあげましょう。
満開にほころぶ花の薫りを胸いっぱいに。
そんな夢を見ながら、小枝の雪を揺り落とす。
若菜は、また温もりにかえり、まどろむ。
― おわり ―