舞うが如く 最終章 5~6
しかし実際には、タケは二歳ほど若く偽っていて、
年齢は内村より10日ほど早いだけで、同年の生まれでした。
この偽りが、のちの破局の一因にもなります。
結婚式は友人たちを招いて、上野の料亭で挙げました。
出席した新渡戸稲造が、札幌の友人である宮部金吾に
その結婚式の模様を、次のように伝えています。
「ロンの結婚式も、昨夜無事にすみました。
彼女について、ぼくからなにもお知らせなかったので
君は心配のあまり速達便をよこしたが、それには子細があって今は話せません。
3年から5年のうちには、あらためて打ち明けましょう。
新婦は、聡明な女性です。
彼らが幸福に暮らすように祈っています。」
と、書き送っています。
「ロン」とは、長身で脛の長いことからきた、内村鑑三につけられたニックネームのことです。
ある程度の、不安な材料をかかえながらの結婚だったということを、
うかがい知ることができる、そんな内容の手紙です。
その後、鑑三自身からも友人にあてて、こんな手紙もとどいています。
「妻の元気がよすぎて、
彼女自身の性格の情熱を抑えるのに、いつも、たいへんに苦労をしている。」
と、書かれています。
いくつかの妻への疑念までも含んで書かれている、この手紙がしめしたように、
そのよからぬ未来は、早々にやってきました。
実際にこのわずか8ヵ月後に、二人の生活が崩壊をします。
破局の理由について問われたときに、
タケは自嘲も含めて、次のように内村の言葉を引用しました。
「悪の張本人であるとか、
羊の皮を着た狼などとも、言われておりました。
妻の姦淫とは、肉体的なものとはかぎらず、
精神的意味合いにおいても、成立をいたすそうです。
わたくし自身の持つ、虚言癖や虚栄心も問題とされました。
ともあれ、破局へは半年足らずで至りました。」
「では、あの子は、
離別してから生まれた子なのですか。」
「はい。
認知を求めて、友人の新渡戸さんたちにも奔走をしていただいたのですが、
内村は、がんとして受け入れてはくれませんでした。
自身は米国へと渡り、神学に身も心もささげる決意だと
語るのみでありました。」
作品名:舞うが如く 最終章 5~6 作家名:落合順平