僕の村は釣り日和11~フィナーレ
週が明けた月曜日の放課後、学校の児童の大半がため池に集まっていた。高田君の持ち込んだ「カワスズキ」ことブラックバスを返すためである。
バケツの中で窮屈そうに身をよじる黒い背中は、早く解放され、自由を得たがっているようでもあった。だが、下アゴを突き出し、どことなくとぼけた顔をしたその魚は、見れば愛嬌があるではないか。
ブラックバスはこの一週間、僕たちにいろいろなことを教えてくれた。水槽の底に沈んだミミズを食べる様など、愛嬌たっぷりだった。それに、泳ぐ力は小野さんが持ち込んだウグイの方が勝っているようで、先に餌を取られてしまうのだ。それどころか、一回り大きいウグイに追い立てられる一面もあった。そんなブラックバスに、教室のみんなからは「かわいそう」という声まで聞かれたほどである。
いつしかブラックバスはどう猛な殺略者から、哀れみの対象へと変わっていた。もっともこれは、僕たちの学校の中だけの話だが。
「さあ、放すぞ」
そう言って、高田君がバケツをひっくりかえす。バシャバシャという音とともに、緑色のよどんだ水に、透明な水が注がれる。だが、それはすぐに緑色と同化してしまった。
黒い魚体が滑った。それは緑色の水の中に落ちると、しばらく動かなかった。いや、エラとヒレをゆっくりと動かしながら、その場に定位していたのだ。まるで、僕たちとの別れを惜しむように。
やがて、ゆっくりとブラックバスは泳ぎ出した。深い緑色の水の底へと消えていく。僕たちはそれを、ただ黙って見送った。
「また、大人たちが駆除するかな?」
高田君が心配そうにつぶやいた。だが、東海林君は笑う。
「俺たちが黙っていれば平気だよ。それに俺はここではもう、ブラックバスは釣らん。どうしても釣たかったら竜山湖まで行くさ。あそこはブラックバスを認めてくれているからな」
そう言う東海林君の口調は、非常に爽やかだった。
「そういえば、父ちゃんが言っていたっけ。ため池でブラックバスを釣っていた連中は、ゴミを平気で捨てたりして、ものすごくマナーが悪かったって」
高田君がうなるように言った。
「そいつらと俺を一緒にするなよ」
「あははははは」
夕暮れのため池に、みんなの明るい笑い声が響いた。
バケツの中で窮屈そうに身をよじる黒い背中は、早く解放され、自由を得たがっているようでもあった。だが、下アゴを突き出し、どことなくとぼけた顔をしたその魚は、見れば愛嬌があるではないか。
ブラックバスはこの一週間、僕たちにいろいろなことを教えてくれた。水槽の底に沈んだミミズを食べる様など、愛嬌たっぷりだった。それに、泳ぐ力は小野さんが持ち込んだウグイの方が勝っているようで、先に餌を取られてしまうのだ。それどころか、一回り大きいウグイに追い立てられる一面もあった。そんなブラックバスに、教室のみんなからは「かわいそう」という声まで聞かれたほどである。
いつしかブラックバスはどう猛な殺略者から、哀れみの対象へと変わっていた。もっともこれは、僕たちの学校の中だけの話だが。
「さあ、放すぞ」
そう言って、高田君がバケツをひっくりかえす。バシャバシャという音とともに、緑色のよどんだ水に、透明な水が注がれる。だが、それはすぐに緑色と同化してしまった。
黒い魚体が滑った。それは緑色の水の中に落ちると、しばらく動かなかった。いや、エラとヒレをゆっくりと動かしながら、その場に定位していたのだ。まるで、僕たちとの別れを惜しむように。
やがて、ゆっくりとブラックバスは泳ぎ出した。深い緑色の水の底へと消えていく。僕たちはそれを、ただ黙って見送った。
「また、大人たちが駆除するかな?」
高田君が心配そうにつぶやいた。だが、東海林君は笑う。
「俺たちが黙っていれば平気だよ。それに俺はここではもう、ブラックバスは釣らん。どうしても釣たかったら竜山湖まで行くさ。あそこはブラックバスを認めてくれているからな」
そう言う東海林君の口調は、非常に爽やかだった。
「そういえば、父ちゃんが言っていたっけ。ため池でブラックバスを釣っていた連中は、ゴミを平気で捨てたりして、ものすごくマナーが悪かったって」
高田君がうなるように言った。
「そいつらと俺を一緒にするなよ」
「あははははは」
夕暮れのため池に、みんなの明るい笑い声が響いた。
作品名:僕の村は釣り日和11~フィナーレ 作家名:栗原 峰幸