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時間移動における矛盾の解消方法に関する考察

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 ここで面白い状況になった。私Nにとっての過去は、鍵を持っていて無事に解錠でき、家の中にあったタイムマシンを起動することが出来た。しかし、今の私Bのポケットには鍵は無い。つまり、私Bはこれから家に入ることもできず、タイムマシンを起動することも出来ない。そして今の私――私Nがこの過去にいることも出来なくなるのである。
 これは立派な矛盾である。私Bと私Nでは歴史が変わり、私Bが私Nになるという因果も崩れてしまった。この時間的矛盾のことを「タイムパラドックス・時間逆説」という。聞いたことはあると思う。時間移動を扱うSFでは、このタイムパラドックスをいかに矛盾無く解消するかが、作家の腕の見せ所なのである。ちなみに、この矛盾を解消する方法は、現在では先人のSF作家がほとんど出してしまっている。そういう意味では、時代遅れのジャンルでもあるのだ。
 ここでこのタイムパラドックスに関する面白い思考実験があるのだが、「親殺しのパラドックス」というのをご存知だろうか。これはもし私が生まれる前に時間移動して、まだ私をみごもらない母親、もしくは父親を殺してしまった場合、私やこの状況はどうなってしまうのかという思考実験である。親は私を生む前に死んでしまうのだから、私はここには存在出来ない。だから過去に時間移動も出来ない。しかし、私が過去に来なければ親は死なないのだから、私は生まれるはずである。この説明をどうつけるかという思考実験だ。以下で解説する矛盾の解消法は、この親殺しのパラドックスにも当てはまるから、順に見ていこう。

 さて、今回のタイムパラドックス・矛盾を解消する方法は、大きく分けて二つあると私は考えている。今回示した例はタイムパラドックスの基本的なもので、以下に示す矛盾解消法もそのパラドックスを解消する常套的な手段であると思う。しかし、もしかしたら私の考え方が間違っていたり、別の方法があるかも知れないが、条件として「現在私が理解しているもの」というのを前提に書いていこうと思う。そこはご容赦願いたい。

 その二つの方法をまず提示する。一つ目は、

 ・このタイムパラドックスによって歴史自体が変化し、未来が別のものになってしまう。

 というもの。そして、二つ目は、

 ・私Bから私N、そしてさらに未来の私までの歴史は絶対に変化せず、どう足掻いても必ずその結果になる。

 というもの。非常にわかりにくいと思う。まずは前者から見ていこう。
 前者の特徴は、歴史というのは変化してしまうというところである(なのでこの型を歴史変化型と名付ける)。私Bの歴史は、私Nのアクションによって私N自身の辿った歴史と違うものになってしまった。つまり、私Nが私Bだったときには鍵がポケットにあったのでタイムトラベル出来たが、過去に来た私Nが私Bから鍵を盗んだことによって、私Bの歴史は私Nの過去とは別ものになってしまったのだ。この状況だと同じものであるはずの私Bと私Nの過去が、違うものであるが同じものとして重なって存在することになる。私Bと私Nの過去は同じものであるはずなのに、別物になってしまったという矛盾である。
 そこで今回の矛盾解消法というのは、同じであると考えていた私Bの歴史と私Nの過去を、それぞれ別の歴史であると考えるのである。わかりやすい例えとして、私Nがアクションを起こした時点から「世界が分岐した」とするものである。そう、これは一般に「パラレルワールド」と呼ばれるものである(この考え方をパラレルワールド型と名付ける)。私Nがアクションを起こさずに私Bがタイムトラベルすることが出来る世界と、私Nがアクションを起こし私Bが家に入れずにタイムトラベルをすることが出来ない世界に分岐したのだ。時間の流れというのは一本線であるため、家に入れる歴史と家に入れない歴史が同時に存在するというのはどうにも落ち着かないものがある。だが、その二つの歴史は「違う世界での出来事」としてしまうと、矛盾はスッキリ解決出来る。
 世界が分裂するなど想像も出来ないことではあるが、実は量子力学という物理学の分野ではこの考え方は学問的にまじめに採用されている。ここでは詳しく書かないが、量子力学においても量子というものが波動性と粒子性の二つの相反する性質を併せ持つ事に対して、このパラレルワールドのような考え方を取り入れているのだ(多世界解釈と呼ばれる)。この分野も面白い話が多いので、ぜひネットなどで調べてみて欲しい。
 ちなみに、それぞれの世界がその先どうなるかというと、私Nがアクションを起こした世界では私Bはタイムトラベル出来ないので、私Nと私Bは永遠にそのまま存在することになる。つまり数十分の差しかない私が二人いる世界になってしまうのだ。
 逆に、私Nがアクションを起こさずに私Bがタイムトラベル出来た世界では、私Bはタイムトラベルをして私Nとなってそのまま午後三時を迎える。午後三時は私Bがタイムトラベルをする時間なので、その世界には無事、私は分裂せずに一人だけとなるのだ。

 この歴史が変化して矛盾を解消する方法というのは、実はもう一つある。それは、世界が分岐するのではなく「歴史が上書きされる」という状態である(同様に歴史上書き型と名付ける)。
 どういうことかというと、私Bが何事もなく家に入りタイムマシンを起動して過去に遡行し、私Nとなって鍵を盗むというアクションを起こした、というところまでは一緒だが、その後に「私Nがアクションを起こして私Bが過去に遡行できなくなった」という結果が「もとの歴史を上書きしてしまう」という点で違うのである。これは、世界は分岐などせず単一の世界の歴史がそっくりそのまま変化してしまうという考え方である。そして時間の流れは一本線であるということも厳格に守った方法である。もとの世界というのはなくなってしまうのだが、二つ世界が同時に存在してしまうという大元の矛盾は回避出来るという面で、根本的な時間移動が原因の矛盾は多少緩和できる方法でもある。

 上書きという言葉から連想されるように、歴史変化型の分類はテキストファイルを例にするとわかりやすい。もともとあったテキストファイルの中身を修正したとき、保存する際にもとのファイル名を変えて保存するのが「パラレルワールド型」、もとのファイル名のまま上書き保存するのが「歴史上書き型」ということになる。ファイル名を変えた場合はファイル名の違うファイルが二つ、変えずに上書き保存した場合は同じ名前のファイルが一つになる。多少はわかりやすくなっただろうか。

 実は歴史変化型においては、押さえておきたいワードが一つある。それは「バタフライ効果」である。
 この歴史変化型においては、時間の構造が重要である。歴史変化型における時間や歴史の構造というのは、小さな、あるいは大きなエピソードの階層的な重なりから出来ている。それは緻密な因果関係から構築され、X地点ではこうなったからY地点でこうなる、という原因と結果が密接に繋がっている。