覇剣~裏柳生の太刀~第二章
大東亜武徳会は代々木の武道館近くにある事務所兼会館である。
大東亜武徳会が出来たのは最近である。
2015年、武道振興のグローバルな発展のために作られた官民共同支援の団体である。元々は太平洋戦時下、昭和十四年、政府が武道振興委員会を設けたのが発端である。
そのころ日本社会は軍国主義一辺倒であり、兵力である青少年の体力強化が最大の問題でもあったから、武道の教育方針が必要な時代であった。
ただ、精神の向上というよりは、実践技術として闘争的側面を強調した特殊訓練が行われ、武道は政府に利用された形だったのだが。
そして大東亜武徳会の前身に当たる大日本武徳会が官制により昭和十七年に設立した。
武道館に近い事務所兼会館はひっそりとした佇まいをして、剣(つるぎ)剣士(けんし)を迎えた。
JR山手線沿線にある建物だが、周りが閑静な場所なのか、本当にひっそりとしていた。秩父の山奥から車で約3時間、都心部は昔に比べると確かに静かになってきた。
まず、車の出す騒音がかなり軽減された。
空気も美味しくなった。
そしてなにより都心部も、緑が多くなっていた。
ヒートアイランド現象の対策として、2011年からビルの上に緑を植えることが政府支援のもと行われ、真夏の打ち水効果もあって、真夏の消費電力も年々抑えられてきた。
ちょうど会館の玄関先で青年が打ち水をおこなっていた。
剣士御一行は、会館地下駐車場に車を停め、先ほど打ち水を行っていた青年に案内され、二階の事務所に通された。
事務所内は簡素だが落ち着きのある和の空間で、ソファーの奥には四畳半の和室もあり、そこが事務所なのに、ちぐはぐな所と言えなくもなかったが。
事務所に通された警官、刑事と剣士はただ黙って案内されたソファーに腰掛けた。
ソファーは大人3人が座っても余裕で、詰めれば4人は確実に座れる大きさだった。
大東亜武徳会の会長って柳生清十郎先生かな、そんな会話が待っている間、刑事たちの間で行われている時に、先ほどの青年が四つの冷えた緑茶をお盆に乗せて入ってきた。
「恐れ入ります、あの、ここの責任者の方は?」
色黒の刑事がその青年に話しかける。
「どうぞ、冷たいうちに召し上がってください」
青年はそう言うと3人の前のソファーに浅く座った。
「私が、ここの会長を務めています柳生(やぎゅう)光(ひかる)と申します」
目の前の青年に一同は一瞬!言葉を失った。
作品名:覇剣~裏柳生の太刀~第二章 作家名:如月ナツ