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覇剣~裏柳生の太刀~第二章

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剣士(けんし)は道場で胡坐をかいて待っていた。先ほどの刑事や警官は一先ず署に戻っていった。剣士には待っていて欲しいとだけ言った。
一人、何故、一人で待っていなくてはならないのか?このまま逃げてしまったら警察の失態である。
だが、剣士には逃げるという考えも思いつかなかった。
多分、今の状態の剣士が逃げるとは思わないほどの虚脱感を、ここに居た誰もが剣士を見て思ったに違いない。
ちょっとの時間で一台のパトカーと救急車が現れた。
秩父の町まで出ただけのようだ。
 先ほどの警官が道場にやってくる、そして龍剣を救急車に乗せるように指示していた。
「剣士さん、先ほど大東亜武徳会に連絡しまして、至急、本部までお越しくださるよう要請を受けました。早乙女強様も、会の方で引き受け、葬儀をさせて頂くと恐縮ながら申されています。ですから、ひとまず荷造りを、お願いできませんでしょうか!」
警官にそう言われ、剣士は言われるままに、二~三日分の着替えをリュックサックに詰め、龍剣の遺品も幾らか詰めた。
考えたら、龍剣とは何時も全国行脚していた、他流試合である。
何時(いつ)も急に出かけることを言われ、急いで荷造りさせられた。
そんなことを思い出し、剣士は初めて穏やかな顔になった。
刀も持っていかなくてはいけない、剣士は昨日、龍剣が使った太刀「村正」1501年製作ものと自分の太刀村正1513年製作の二本、それぞれ布袋に入れた太刀を小脇に抱え、手入れ道具を右手にパトカーの前に現れた。
「戸締りは済みましたか」
警官に言われ、剣士は苦笑した。
家には何もないのだ。
家の裏には鍛冶場があるが刀はみんな、お客さんに納めたばかりだったし、そういえばカードだって龍剣は持っていないのではないか、剣士は、はっとした。
そうだ自分にはお金が小遣い程度しかなかったのだ。
「すいません、あの、お金が無いんです」
剣士はそう言ってパトカーの運転席にいる警官に話した。
「大丈夫です、その辺のところは大東亜武徳会が面倒を見ますから」
剣士はそう言われほっとした顔で、パトカーの後部座席に乗った。