カクテル
<カクテル>
この店に始めて来たのはいつだったろう。
ただ、通りすがりにふと見つけた控えめな看板だけが妙に印象に残っている。
そしてその看板は今夜も控えめな灯りに照らされていた――。
いつものように地下への階段を降りてゆく。
明日からは連休という事もあり、俺の足取りは軽かった。
木製の少し重めのドアを押すと、木目を活かしたブラウンの内装がいつもの様に俺を迎えてくれる。
「いらっしゃいませ」
長い付き合いのマスターが丁寧な言葉遣いで声を掛けてきた。
馴染みになっても態度を変えたりしない姿勢に俺は好感を持っている。
ただ、いつもと違うのは、この店にはこんなに人が入るのか? と言う程の混雑ぶりであった事だ。
さもありなん。実はこの店、今日で店を閉めてしまうのだ。
一週間前に会社のメールに挨拶が届き、最後の日には招待するので是非来て欲しい、と言ってきたのだった。
突然の閉店にもびっくりしたが、俺にはマスターが電子メールを使えるという事がソレ以上の驚きだった。
というのも、ここのマスターは店の内装と同様、なかなかの懐古趣味で、そういうハイテクなモノには全く縁が無いだろうと思っていたのだ。
しかも、気に入らない客にはわざと不味いモノしか出さないくせに、一旦気に入ると頼みもしない妙なカクテルを奢ってくれるという変わり者でもある。
変わっているといえばその風貌も決して嫌なモノではないが、どこか昆虫を思わせる、滅多にお目に掛かれないタイプの顔立ちだ。
ただ、例の妙なカクテルは他のどんな飲物よりも美味いと俺は思っている。
この店に始めて来たのはいつだったろう。
ただ、通りすがりにふと見つけた控えめな看板だけが妙に印象に残っている。
そしてその看板は今夜も控えめな灯りに照らされていた――。
いつものように地下への階段を降りてゆく。
明日からは連休という事もあり、俺の足取りは軽かった。
木製の少し重めのドアを押すと、木目を活かしたブラウンの内装がいつもの様に俺を迎えてくれる。
「いらっしゃいませ」
長い付き合いのマスターが丁寧な言葉遣いで声を掛けてきた。
馴染みになっても態度を変えたりしない姿勢に俺は好感を持っている。
ただ、いつもと違うのは、この店にはこんなに人が入るのか? と言う程の混雑ぶりであった事だ。
さもありなん。実はこの店、今日で店を閉めてしまうのだ。
一週間前に会社のメールに挨拶が届き、最後の日には招待するので是非来て欲しい、と言ってきたのだった。
突然の閉店にもびっくりしたが、俺にはマスターが電子メールを使えるという事がソレ以上の驚きだった。
というのも、ここのマスターは店の内装と同様、なかなかの懐古趣味で、そういうハイテクなモノには全く縁が無いだろうと思っていたのだ。
しかも、気に入らない客にはわざと不味いモノしか出さないくせに、一旦気に入ると頼みもしない妙なカクテルを奢ってくれるという変わり者でもある。
変わっているといえばその風貌も決して嫌なモノではないが、どこか昆虫を思わせる、滅多にお目に掛かれないタイプの顔立ちだ。
ただ、例の妙なカクテルは他のどんな飲物よりも美味いと俺は思っている。