神様ソウル
「ただ監視するだけというのも面白くないのでこの街の案内なんかしてくれるとうれしいんですけど」
テミスがするすると滑り台を降りてきた。
「……わかったよ」
「怒ってます?」
「……怒ってません。案内ってどこか行きたいところでもあるのか?」
「んー事前に調べておいたので知らないことはあまりないんですけど」
「じゃあ案内いらねぇじゃねーか……」
「君、昼休みが終わる間際に女の子と話してたでしょ。髪が長くてちょっと目つきの悪い」
「ああ、麻倉のことか。あいつがどうした?」
「課長がさっき言ってたクラスのちょっと気になる子ってもしかしてその子のことです?」
「う、うん……そうだよ」
「なーるほどー。それは少し残念ですね」
「残念?何がだ」
「死んじゃうんですよ、麻倉まゆみ」
「死ぬ?」
「明日の放課後、交通事故に遭うみたいですね」
死ぬ?麻倉が死ぬ?
「なんだと……どうしてわかるんだ?」
「その者の業や徳を逆算すればある程度先のことは予知出来るんです、私たち」
「そんな……嘘だ」
「ほんとです。残念ですけど」
「……止めることはできないのか?」
「止める?どうしてですか」
「どうしてって。麻倉が死ぬのが嫌だからに決まってるだろ」
「そんなことしたらまた上から目付けられちゃいますよ?せっかく助かった命なのに」
「麻倉が明日死ぬってことをお前の口から聞いてしまった以上、行動しないわけにはいかないよ!」
「私のせいみたいに言わないでくださいよ。事前に知っておいた方がショックも小さくなると思ったから言ったんです。もう彼女が死ぬのは運命で決まってることなんですよ」
「運命……」
「運命を変えるというのがどれだけ大変なことかわかりますか?人一人の意思で軽々しく歪めていいものではないんですよ」
「知らないよ、そんなの。ただ僕は……麻倉が死ぬのは嫌なんだ」
「じゃあどうするつもりです」
「麻倉が明日交通事故に遭わないようになんとか誘導する、僕が」
「ダメですね。そう簡単に運命を変えることはできない。目の前の事象を回避すればいいというわけじゃないんです」
「じゃあどうすればいいんだ……?」
「だから私は彼女を助けるのには反対だって言ってるでしょ。協力する気はありません」
テミスはそっぽを向いて言った。
「お願いだ、テミス。麻倉は大事な友達なんだ。他に代わりのいない、大切な人なんだ。でも僕一人じゃ助けることができない。頼む、協力してくれ……」
僕は深く頭を下げた。
「んー困りましたなぁ……」
テミスは滑り台のレーンにうつ伏せに寝転がった。
「……助けようと努力しても助からないかも知れませんよ?」
「でも僕が動かなかったら絶対に助からないんだろ?」
「それはそうですけど。ふーむ。……しっかたないですねー」
テミスは緩慢な動作で滑り台に手を付き、ゆらりと立ち上がった。
「……わかりました。私自身に危害の加わらない範囲でならこの一件、力を貸しましょう」
「ほんとか!?」
「課長ガンコだし、このまま話してても平行線のままでしょ。お互いの妥協点ということで。危なくなったらトンズラしますけど。助言くらいならします」
「……ありがとう。ほんとに」