神様ソウル
どこか遠く、記憶や感情の及ばない場所で浮遊していた意識が体に戻り、目が覚める。誰かが僕の両肩をがっしりと掴み激しく揺さぶっていた。
「お、目覚めました?」
「お前が起こしたんだろうが……」
「もう夜ですよ。ただの過労で何時間眠るつもりなんですか」
「だったら先帰っていいよ……無理矢理起こすのはどうかと思うんですけど……」
「病院のベッドで眠ってる同級生を置いて帰宅するなんてことできるわけないじゃないですか。こっちでの暮らしが短い私でもそれくらい分かります」
「その気遣いも先ほどの暴挙で全部ぶち壊しだよ……」
「私は別にいいんですよ。まゆみちゃんのことも考えてあげてください」
「まゆみちゃん?」
麻倉のことそんな風に呼んでたっけ?
「まゆみちゃん、帰りが遅いからって家族の方に怒られてたみたいですよ。今も電話しに外に出てるみたいです」
部屋の壁掛け時計は二十二時を指していた。確かに年頃の娘がこの時間まで帰らないと親は心配だろう。
「ん、てことは麻倉は助かったのか!?」
ぼんやりとしていた頭に思考力が戻ってくる。
「はい、怪我一つしてないですよ。お疲れ様でした」
「じゃああの大木はテミスが防いでくれたのか?」
「大木?なんのことです?」
「公園でテミスが席を外している時、大木が倒れてきたんだ。それを止めようとしたところで意識を失って」
「私は知らないですね。戻ってきたときにはもうまゆみちゃんが課長を抱えて大騒ぎしてましたよ。大木が倒れていたという形跡もありませんでしたし」
テミスは首をかしげて言った。
テミスの言い分を信用するのなら、今麻倉が無事で居るのは大木が倒れたのが見間違いだったからか、僕ら二人ではない誰かが麻倉を助けたからかのどちらかだろう。確認する術は無いが。
「とにかくもう時間も遅いので私は帰ることにします。わかっているとは思いますが、まゆみちゃんには私達の世界のことは絶対に言わないでくださいね。業だとか徳の話も厳禁です」
「わかったわかった」
「ヒロトさん、これからも宜しくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく」
テミスは軽く頭を下げ、軽快な足取りで病室を去っていった。そういえば彼女に名前を呼んでもらったのは初めてかもしれない。すこしだけ、彼女との距離が縮まったような感触を覚えた。