神様ソウル
外で誰かがあわただしく廊下を駆ける音がして、扉が開いた。麻倉だ。
「目が、覚めたって……」
「ああ、おはよ」
「はぁ、良かった」
麻倉は右手に持った携帯電話をポケットにしまいながら椅子に座った。
「今晩どうする?一晩ここに泊まって行ってもいいみたいだけど」
「そういえばここってどこの病院?」
「丘の上の総合病院だよ。駅の向こう側の」
「少し遠いけど歩いて帰れるな。麻倉ももう帰らないといけないんだよな」
「うん。もうお母さんカンカンだよ」
「悪いな待たせちゃって。帰ろ帰ろ」
看護婦を呼んで手続きを済ませ、僕たちは病院を出た。二人で並んで歩く。
「なんかすごい一日だったなぁ。本棚が倒れてきたり里見くんが落とし穴に落ちたり」
「木も倒れてきたりな」
「木?なんのこと?」
試しに聞いてみたが麻倉も覚えていないらしい。
「……いや、なんでもない」
「ふーん?そういえば今日の里見くん様子おかしかったよね」
「そ、そうかな」
「うん。むしろおかしくないところを見つけるほうが難しいくらい。そわそわして、キョロキョロして、何かから逃げるように走りまくって。傍から見たら挙動の不審な変人さんだったよ」
「う……」
悔しいが今日の僕の行動をかなり的確に評価していた。
「でもね、茅ヶ崎さんがさっき言ってたんだよ。里見くんに感謝しなさい、って」
テミス……。
「思えば里見君の様子は今朝からずっとおかしかった。里見くんが何の考えもなしにこんな奇行に走る訳ないよね。理由があるなら説明して欲しいな」
「うーん…………」
どう説明しようとしても、話してはいけない部分に触れてしまう。麻倉を納得させることのできるような嘘もとっさに思いつかなかった。
「説明できないんだ?」
「……ごめん」
「いいの。私がただ知りたいってだけだから。里見くんが今日一日、何故か私のために頑張ってくれたってことはなんとなく理解したし」
「そうか」
麻倉は早足で僕の前に進み、振り返った。
「だから、よくわからないけどお礼言っとく。ありがとね、里見くん」
「麻倉……」
この笑顔が明日も見れる。彼女を守ることができて本当によかった。
「まぁ今日の埋め合わせはしてもらうけどね。もちろん全部里見くんのおごりで」
「麻倉ぁ……」