神様ソウル
店を出て僕は愕然とした。逃げ場がどこにも無かったのだ。
信号を無視する小学生、工事中のビル、スピード違反の乗用車。
僕達を取り囲む日常、その全てが麻倉の命を狙う悪意に見えた。
もはや何が安全なのかわからない。僕は麻倉の手を引いて走ったり曲がったり止まったりを繰り返しながら走り続けた。
「里見くんどうしたのっ?そんなにあわてて!」
麻倉は困惑している様だった。だが今は理由を話している暇はない。走り続けて走り続けた。もう何分たったろうかそれもわからない。先ほどまで頭の中に並べてあった作戦や予定は全て吹き飛んでしまっていた。
『テミス!』
『はい』
心の中で呼びかけるとテミスの声が頭の中で響いた。
『今どこにいる?』
『あなた達二人の15メートル程後方です。そんなに急いでどこに向かうんですか』
『…このあたりに公園がある。それなりに広くて見通しもいい。そこを目指してる』
『了解。ですが、そろそろペースを落とさないと麻倉まゆみの体力が持ちそうにないですよ。この『茅ヶ崎優花』の体でも追い付くのがやっと。彼女はもう殆ど限界と言ってもいい状態にあるはずです』
『だけど急がないと』
『公園に到着したら終わりというわけじゃないんですよ。今までの傾向から少な目に見積もってもあと20分以上彼女を守らなくてはいけません。この調子では持たないのは明らかです』 くそ……。
振り向いて麻倉の様子を伺う。口を開きハァハァと荒い息遣い。何とかついてきてはいるものの足元はおぼつかない様子。理由も聞かずによくここまで着いてきてくれたものだ。しかしここで歩調を緩める訳にはいかない。
「麻倉」
僕は立ち止まり振り向いて彼女の方に向き直った。
「さとみ、くん……?ちょっと、じょうきょうが……よく、わからないんだけど」
「ごめん、詳しくは説明できない。とにかく、今同じ場所に留まるのは危ないんだ」
「危険……?どういうことなの……」
「ごめん。急いでるから」
「さとみくん?……うわっ!」
話している時間が惜しい。僕は麻倉の腰と膝に腕を添え、一息に持ち上げた。お姫様抱っこという奴だ。
全力で走ってもスピードはさっきの三分の二程度。しかし麻倉の体を休めながら進むにはこれ以外ない。
「ちょ、恥ず、恥ずかしいよさとみくん……」
「我慢して。公園までの辛抱だから」