神様ソウル
話し合った結果、僕が麻倉のそばについて彼女の近辺を守り、テミスはやや離れた場所から僕の視界に入らない部分を監視することとなった。
「それじゃ私教科書貰ってくるね」
テミスは駆け足でカウンターへ向かっていった。
「私達はどうしよっか」
「麻倉は何か買いたいものとかあるの?」
「んー特に。問題集でも買おうかなって思ってたけど」
「じゃあっちか」
参考書コーナーは店内の一番奥に設けられていた。頭の高さまで本が敷き詰められている本棚も普段とは違い印象を受ける。
「テスト前って訳でもないのに勉強熱心だな」
「里見くんは勉強に興味なさすぎ。受験もあるしそろそろ本腰入れないと」
「よくそんなに勉強できるよな麻倉は」
「そんなに勉強してないよ私は。先生の話をよく聞いてるだけ」
こともなげにそう言い放った麻倉の成績は学年でもトップクラスだ。クラス代表も任されていて素行も良く教師達からの信頼も厚い。
「むしろ私からみたら里見くんが今の成績を維持してる方が驚きだよ。授業中もずっと寝てるしノートもほとんど取ってないし」
ちなみに僕の中の上。上位グループに少し届かないくらいだ。
「聞く必要ないだろ。先生は教科書に書いてあること読んでるだけなんだから」
成績なんてものは生徒本人のやる気次第でいくらでも上下するものだ。教師達もそれを良く理解しているらしく、進んで自分から質問でもしない限り必要最低限のことしか教えてくれない。受け持った生徒の成績がよくなったところで自分の給料がよくなるわけでもないしな。とにかく、うちの学校で面白い授業をしてくれる教師は少ない。面白くある必要もないけど。どうせ寝てるから。
「要領がいいんだね。もっと勉強すれば成績も上がるのに。大学とか決めてないの?」
「大学か。まだ考えてないな。麻倉は?」
「私もまだ。なるべく上の大学に行きたいって考えてるけど」
「麻倉ならきっといいとこ行けるよ」
「大学なぁー。なんか現実味がないなぁ」
「何言ってんだよ。こんな勉強してるのに」
「私大学行って学びたいこととか特にないから。消去法的に勉強の優先順位が一番上に来てるだけ」
麻倉はおもむろに参考書を手にとりパラパラと読み流しながら言った。
「でも最近は勉強より大切なものを見つけた気がするんだよね」
「へぇ。なんか習い事でも始めたの?」
「んー違う。言葉で説明するのは難しいかも。でも結構充実してるよ最近」
「そりゃ良かった」
「里見くんはどう?」
「色々変化があったな。ここ数日は特に」
「茅ヶ崎さんが来てからだ?」
「まぁそうだな」
「……ふーん」
麻倉は参考書を元の場所に戻さずに平積みしてある本の上にぞんざいに放った。
「でもそれ以前の日常も僕にとっては大事なんだよ。それも変わって欲しくないと思ってる」
「……ふーん?」
本棚を見上げたまま首をかしげる麻倉。壁掛け時計から小鳥が飛び出し十六時ちょうどを告げた。戦いの始まりだ。