神様ソウル
しばらくするとクラスメイト達が教室に集まり始めた。僕は麻倉の席を離れ自分の席に戻る。
授業が始まっても麻倉のことが気になってしょうがない。目を離している間に何か起こるかもしれない。僕は時折振り向いては彼女の方を確認していた。麻倉は僕と目が合うと、軽く苦笑して「前を向きなさい」と黒板を指差す素振りで僕に示した。
一方テミスの人気は相変わらずで、休み時間の度に彼女に近づき話しかける男たちが後を絶たなかった。彼女は常に笑顔を絶やさずに丁寧に対応していたが、時間が経つにつれて彼女の顔が引きつっていっていたのに気付いたのはおそらく僕だけではないだろう。
そうこうしている内に放課後になった。こんなに一日が長く感じたのは始めてのことだった。
「里見くんっ」
息を弾ませて麻倉が僕の前に現れた。僕はテミスと顔を見合わせて頷き、立ち上がった。
「あの、麻倉。申し訳ないんだけど」
「ん?」
「今日本屋行くの茅ヶ崎も一緒に連れてっちゃだめかな」
「え?」
「実はさっき、先生に茅ヶ崎にこの町の案内をしてあげてくれって頼まれちゃったんだよ」
「そうなの。教科書を買いに行きたいだけど場所が分からなくて。それを先生に言ったら先生が里見くんにって」
「それで明日以降は茅ヶ崎の都合が悪いらしくて、今日じゃないとどうしてもダメみたいなんでさ」
もちろんこれは僕とテミスが考えた真っ赤な嘘だ。僕の監視をしたいテミス、麻倉から目を離すことのできない僕。お互いの目的を果たすには三人一緒にいるのが一番だという結論にたどりついたのだ。
「そっか。あの本屋奥まったとこにあってわかりづらいもんね。よし、行こっか」
「ほんとごめんな」
「なに謝ってんの。別にデートってわけでもないし、気にしてないよ」
そう言いながら歩き出した麻倉の背中は少し元気がなさ気に見えた。
「どうしたんですか?そんなににやけちゃって」
テミスが僕の顔を見つめて言った。
「え、にやけてる?」
「ええ。朝倉さんの背中を見ながらいやらしい顔で。麻倉さんが残念がってくれてるのがうれしいんですね」
「ぐ……」
図星だった。僕はテミスを無視して麻倉の後を追うことにする。