神様ソウル
翌朝。人通りの少ない商店街を抜けて、学校に到着する。また七時を回るかどうかというこの時間、校舎内はしんと静まり返っている。一年四組のクラスの扉を開けるといつも通りの光景。麻倉まゆみが窓際の自分の席に姿勢良く座りノートにペンを走らせていた。
「あれ、里見くん?」
「おー。おはよ」
僕は自分の机にカバンを放り、麻倉の席の一つ前に座った。
「こんな時間に来るなんて珍しいね。どうしたの?」
「なんとなく早く目が覚めたから。麻倉はまだこの時間に来て勉強してるんだな」
「やってるよー。最近寒くなってきたから布団から出るのが辛いけどね。里見くんもまた一緒に勉強しようよ」
「もう結構前のことになるんだな。懐かしい」
僕と麻倉が知り合ったのは今年の春のこと。今日と同じように朝の誰も居ない教室で勉強している麻倉と話をしたのがきっかけだった。
「クラス換えして一ヶ月にもなるのに里見くんが全然クラスに溶け込めてなくて心配してたんだから。学級委員としてこれはなんとかしないとって思ってたの。それで今しかない、って話しかけたんだよ」
「僕そんな風に思われてたのか……」
「ちゃんとクラス見てる人は気付いてたと思うよ。気付いたところで行動するかどうかは別だろうけどね」
「そんなこと言って実は麻倉もクラスに溶け込めてないじゃないか。よく一人でいるとこ見るぞ」
「失礼な。私は委員の仕事とかで忙しいからそう見えるだけです。人並みに付き合いはあります」
「委員会マニアだもんな。学級委員のほかに何かやってなかったっけ」
「図書委員ね。里見くん借りに来たらサービスしてあげるよ。私のコネで」
「サービスってなんだよ」
「私のオススメの本紹介してあげる。うちの図書室結構品揃えいいんだから」
「へー」
「あ、今日本屋行くの忘れてない?ちゃんと空けておいてよね」
「わかってるわかってる」
「あ、それと、さ。もし暇だったらその後も、どっか……行かない?」
麻倉はノートをシャーペンの背でコツコツと叩きながら言った。俯いたその顔はどこか赤く染まっているようにも見える。
「おお、いいよ。せっかく駅前に行くんだしな」
「ほんと?やった。どこいこうかな。駅前って何あったっけ」
「カラオケとかボーリングとかあったなー」
「たくさん遊べそうだね」
ニヤニヤ笑いながら麻倉は鼻歌を歌い勉強を再開した。そういえば、昨日テミスが人や建物の少ないところに居るようにしろって言ってたな。すると駅前からは離れた方がいいか……。