スターダスト・ガール
「駅前はあんなに賑わってたのに、少し離れるとまるっきり田舎だな」
「もともと田舎街だからな。駅前が賑わってるほうが不自然なんだよ」
新しい市長の就任により積極的に都市開発が進められていたこの駅前だが、二年ほど前から新しい建物が造られることはなくなっている。住民達による反対運動が行われたのが理由で開発が中断されたそうだ。昔から住んでいる大人達からすると、開発によって自然が奪われていくのはどうしても許せないことらしい。カラオケ一つ行くのに一時間近く電車に乗らなければならなかった頃に比べれば大分住みやすくなったと思うんだけど。大人の考えはどうも分からない。
裏山に到着する。
「こっちだ」
さくらが僕の手を掴み、引っ張っていく。
「完全な獣道だな」
「地球人達の眼についてはいけないものだからな。足元に気をつけろよ。ここで転ぶとふもとまで一直線に転がり落ちることになるぞ。あの時は本当に死ぬかと思った」
「落ちたのか……」
「……まだ地球人の体に慣れていなかったんだよ」
さくらの後ろについて山道をどんどん登っていく。
「普通に林の中にあるんだな。こんなんじゃ簡単に見つけられてしまうんじゃないか?」
「この周辺には特殊な電波をめぐらせてあるんだ。なんとなくここから離れたい気分にさせる効果がある」
「物凄く都合のいい電波だな……マンガなんかではよくある話だけど」
「都合のいいものは誰もが欲しがる。だからすぐに誰かが発明してしまうんだ」
「宇宙は広いな……」
さくらが足を止めた。目の前には直径十五メートルくらいの大きなくぼみがあった。
「なんだよこれ……」
くぼみの底にいたそれは、某有名RPGに出てくる雑魚モンスターのような形をしていた。絶えずぷるぷると震えるその質感はまさにスライム。
「これが私達の母体だ。木々をなぎ倒す巨大な生物の目撃例というのはおそらくこれだろう。私はもともとこいつの体の一部だったんだ。」
「こんなでっかいのがよく気付かれることなくここまで来れたな」
「都合のいいステルス機能を搭載してるんだよ」
「宇宙は広いな……」
近づいてみる。
「触ってもいいか?」
「少しならいいよ。あまり触りすぎると不機嫌になるから気をつけて」
「ああ」
右手を伸ばして、そっと触れる。柔らかくて弾力がありグミやゼリーのような感触だが、表面は乾いてさらさらしている。
「なんというか……ほんとに宇宙人なんだな」
「なんだ、信じてなかったのか」
「信じてなかったわけじゃない、目の前であんなことされたわけだし。でも、こういう超常的なものを目の当たりにするとやっぱりさ」
「そうか」
「じゃあ知り合いが全くいないっていうのも本当なんだな」
「ああ、そうだ」
「寝泊りはどこでしてるんだ?」
「この辺のベンチをベッド代わりにしてるよ」
この裏山には一応屋根つきの休憩所がいくつかある。しかし女の子が寝泊りするには過酷過ぎる環境だ。
……天蓋孤独の身か。
「……俺の部屋、来るか?」
「む、いいのか?」
「うちの母親そういうの気にしないし、使ってない布団もあるから。ちゃんとした寝床が見付かるまで使っていいよ」
「おお、ありがたい!助かるよ」
腕を絡ませてくるさくら。ドキっとしてしまうのはなんでだろう。
「礼といっては何だが、夕食を作ってやろう。買い物に行くぞ」
今日は母親の帰りが遅い、と話すとさくらはそういって僕を引っ張ってスーパーに向かった。
野菜はどこだ、肉は、お菓子は、アイスは、とスーパー中を連れまわし二人前には明らかに多すぎる量を購入した。
「何を作るつもりなんだ?」
「まぁ無難に和食かな。肉じゃが、焼き魚、味噌汁とか」
「本格的だな」
「まぁ料理作ったことないんだけどな」
「……期待しないで待ってるよ」
「ふん、宇宙レベルの学習能力を見せてやる」
作品名:スターダスト・ガール 作家名:くろかわ