スターダスト・ガール
「さて、私がこの星に来た最大の目的を果たすために必要なのが地球人の女としての魅力なわけだが」
さくらは茶をすすりながら話し始めた。
「ふんふん」
「その魅力に大きく関わるある知識が私には圧倒的に欠如している」
「なんだ?」
「性行為に関する知識、すなわちベッド上で男を満足させるスキルだ」
「それを俺に手伝って欲しいと?」
「そうだ」
「出来るわけないだろう。またお前はふざけたことを……」
「何もふざけてない。ことに及ぶとなった時に相手に興奮してもらえなかったら大問題じゃないか」
「ほんとにどこまでも生殖行為主体なやつなんだな……。というかその前にベッドインまでたどりつくことが出来なかったら意味ないんじゃないか?」
「む、確かに。そうなると、男をベッドまで連れて行く技術も必要か」
「俺に手伝えることはなさそうだな……」
「いや、あるぞ。そういえば、悠一は今日予定はないのか?」
「そうだな。暇だ」
もう学校にも行く気はしないしな。
「それなら街に行きたい。デートというものの雰囲気を味わってみたいんだ」
「デート……」
「ムードや空気のような抽象的なものは間接的に学ぶことが難しい。実際に体験してみたいんだ」
「別にいいけど、俺もデートなんてしたことないからたいしたこと出来ないよ」
「問題ない。行こう」
裏山や学園がある方とは反対に方向にしばらく進むと、駅前に到着する。ここはこの街で唯一にぎわっている場所だ。カラオケボックスやボウリング場、映画館にゲームセンター。どれもどうやって営業が成り立っているか疑問に思うほどの人気のなさだが、遊び場所としては申し分ない。
「さて、デートというとどういうところに行くのがいいのだろうか」
「ショッピングとか映画とかがベターなんじゃないか」
「映画か。話には聞いたことがあったが実際に見たことはないんだ。それにしよう!」
「って、お前金は持ってるのか?」
「お。忘れていた。立て替えておいてくれ。近いうちにまとめて返すよ」
「あてはあるのかよ……」
「あてなどない。ないが、この私の美貌が近い将来大きな富を生むことを約束していると言えるだろう」
「言えないでしょ……全然意味わかんねーよ……」
かといって今更引き返すわけにもいかなかったので、映画の代金は僕が払うことになった。
「色々な種類のものがあるんだな……」
「さくらはどういうものが見たい?」
「初めて見るからな……簡単に映画の良さを理解できるものがいいな」
選ぶといっても上映している映画は二つしかなかった。痛快なアクション映画と最近評判の恋愛映画。
「んーじゃあこれで」
僕はアクション映画を選択した。さすがにこいつと恋愛映画を見る気分にはなれない。
窓口で券を買って、映画館の中に入る。
「うおー!広いな!すごい」
「静かに!」
シアターに入ってから様々なものに興味を示しては騒がしくしていたさくらだが、上映が始まると口を閉じてスクリーンを食い入るように見つめ、終始映画に集中していた。
「いやー面白かった。やはり話に聞くのと実際に体験するのでは全く違うな。大きなスクリーンに迫力のあるBGMや役者の演技。人々が魅了されるのも充分理解できる」
込み合う映画館の出入り口の前で、満足気な顔で頷くさくら。
「さて、次はどこに行こうか」
「何処に行こうかって……これ以上金を使うのは俺のほうとしてもカンベンしてもらいたいんだけど……」
本当なら昼食でもおごりたいところだが、今月は財布の中身が寂しい。バイトもしていない学生の身分では限界がある。
「んー困ったなぁ」
「そうだ、裏山とかどうだ?さくらが地球に来るときに乗ってきた宇宙船とか見てみたいな」
「宇宙船か……たぶんお前が想像しているものとは少し違っていると思うが」
なんだか気が進まない様子のさくらを連れて裏山に向かう。ここから裏山まではバスに乗れば二十分もかからない。
作品名:スターダスト・ガール 作家名:くろかわ