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舞うが如く 最終章 1~2

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 此処で働く工女たちは、1等から12等まで厳密に区分されています。
月給は、1等工女が4円50銭で、12等になると37銭5厘でした。
さらに一ヶ月の皆勤手当として、20銭から25銭が支給されます。
3年間の年季明けで帰郷するときの旅費は、全額を製糸所で負担をしました。
工女の食事や夜具、蚊帳などは支給されますが、身につける衣類や小間物は、
すべて個人持ちとなっています。


 就業時には、全員が着物に帯を締めています。
その支度の上には、白いかっぽう着を羽織りました。
指導と監視役の教婦(きょうふ)が、はかま姿で工場内を見て回ります。


 工場内は、常にたいへんに静かです。
黙々と作業をこなして、隣と無駄話をしている風景などは見たことがありません。
午前10時と午後3時には、チリン、チリンと鐘が鳴り、作業を止めて麦茶を飲んで休みます。




 釜場で使う石炭は、桐生から半日をかけて毎日輸送されます。
渡良瀬川沿いに荷車で運ばれてきますが、工場の直下で馬に積み替えられました。
馬の背に袋を振り分け、その中に石炭を入れて運びあげます。
狭く急な坂道が続いているために、何回も往復をしなければなりません。


 「馬方さんは若い男性で、
 手ぬぐいをキリッと巻いて、頭の横にチョンと端を立てています。
 それが、たいへんに粋にあるまする。」


 と、若い女工さん達は色めきます。
馬方たちは、シャツに半纏(はんてん)で、下はもも引きに素足です。
まとった半纏には「勢多水沼組」の文字が鮮やかに染め抜かれていました。



 この水沼製糸場が急成長した背景には、
身内を米国に派遣して、生糸の直接の取引を切り開いたことに有ります。
好調な取引に支えられて、さらに規模を拡大し、工女たちの数も増えてきました。
ついに、200人を越えようとしています。



 琴が水沼製糸場に着任してからまもなく、
新しく雇い入れた工女のなかに、なんと、咲の姿もありました。
沼田城下出身の咲は、身分は士族の娘です。
士族の中でも、上士(いわゆる侍)と、下級武士という身分の違いは歴然とあり
咲は下級武士(足軽に近い)の次女という立場です。